風景
石畳の隙間を雨水が流れていく。
水の流れとは逆の方向に歩いて行く。
暗い。
立ち並んでいる家から漏れる灯りが、道を作っていた。
視界は半分。
さらに斜線が走っている。
靴とスボンがじわじわと濡れていく。体温が奪われていくのを感じる。
いつも見かけるような猫も今日は姿を隠していた。
よかった。
電柱の前に水たまりができていた。
暗くて見えてはいなかった。
左足がぐっしょりと濡れた。
人とすれ違った。あやうくぶつかりそうになった。お互い前を見ていなかった。
やっと家についた。
庇に隠れて傘の水を切る。
扉をあけて中へはいる。温かいシャワーを浴びよう。でも、その前に、できるだけ部屋を濡らさないようにあがらなければな。
服を脱いで、浴室に入る。
雨のようなシャワーを浴びた。
雨のように冷たくはなかった。
だけど、蒸発するときに体を冷やすのは一緒だった。
翌朝。
空は青より白く、眩しかった。
石畳の道を駅まで下っていく。
いくらかの人が同じように下っていく。きっと駅へ行くのだろう。
電柱の前のへこみに気付いた。
まだ中央にいくらかの名残を抱えていた。
猫は相変わらずいなかった。
まだ寝ているのだろうか。
それとも早起きして遊びにでかけているのだろうか。
影から日向に移ると温かい。
塀の向こうの木々が、ささやかな花をつけている。
石畳が終わって、コンクリートの大通り。信号で待っていると、たくさんの人を乗せたバスが目の前を通り過ぎた。
運ばれていく。
バスで。
運ばれていく。
電車で。
昨晩、足元を流れていた雨水たちは、いまごろどこまで運ばれたのだろうか。
もう姿は見えなかった。
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