魔王、図書館にて学ぶ
吉〇家に入って直ぐに正気に戻った。
こんなところにスカーレットを連れてきてどうするんだ？
彼女はブラドの娘で、もはや絶滅の危機に瀕しているとは言え、魔族の侯爵家の令嬢であり、俺が不在時の魔王軍を統括していた女性だ…… 恐らく、このような場所で顔も知らない連中と食事などを取った事が無いはずだ。
しかし、スカーレットを見るとその瞳に好奇心を宿している。
「……すいません、牛丼大盛と並みをお願いします」
これはいけそうだと考えた俺は空いている一番端っこの席に彼女を座らせて、その隣に座った。彼女は出された牛丼を矯めつ眇めつ眺めている。
「おじ様、これは何の肉なのでしょうか？」
向こうの世界にも、牛と類似した生き物がいる。強いて言えばそれに当たるという事を伝えた。
「んッ！これは、美味しいですわ！ヴェレダが好きそうな料理です、後で教えてあげないと……」
もくもくと牛丼を食べる金髪美女の姿がそこにはあった…… だが、スカーレットよ、向こうには味醂も無ければ醤油もない……
遅めの昼食？を取った後、目的地の図書館で動力源になりそうな物を調べる。ポイントは向こうの世界でも再現が可能であるという点だ。そして、大掛かりな装置など作れるとも思えない。
水車などはあちらでも存在するため、水力発電なども考えられる。
確か、ダンジョンをもしもの時のシェルターとして創った際、地底湖から下層の生産区画と居住区画に水を引き、上下水道を作ったはずだ。
水力発電の構想を練り始めた矢先にスカーレットから声をかけられる。
「イチロー様、これはどうでしょうか？」
彼女が示すページにはワットの蒸気機関の詳細が記載されていた。
そこに二つの連結されたシリンダと、スライドバルブ、ピストンで弁棒とピストン棒を左右に動かし、それをクランクと車輪で回転運動に換える仕組みが書かれていた。
「蒸気機関自体は問題ないか……」
ダンジョンは中央部が地上までの巨大な吹き抜けとなっており、通気性は良い。空からは、森の中に大穴がある様に見えるのだろう。
取りあえず、蒸気機関を様々な物の動力候補にするとして、後は発電ができればダンジョン生活がより良くなる。
回転系から発電を行う仕組みには、S極とN極の間に挟んだコイルを回転させる方法があって、そこに鉄心による変圧器を繋いで電圧を調整するとかだったはず？
取りあえず、手回し発電機でもサンプルに買って帰るか？
しかし、この時は思いもしなかったのだ。
素人の俺が思うよりも遥かに安全面を考慮した発電のハードルが高く、錬金と鍛冶の職人である“青銅のエルフ”達を大いに困らせ、その職人魂に火をつけるとは……
おかげで、何回も向こうと此方を往来させられた後に、日本製部品を所々に盛り込んだ試作型の小型蒸気発電機が異世界に誕生する事になるのはまだ少し先の話である。
図書館を出た後は、異世界と地球を往復しつつ、PC3台とソフトウェア類、プリンターとその消耗品、燃料式小型発電機、ガソリン携行缶withガソリン、リール式延長コードを購入した。
それに手回し発電機、技術関連書籍数点を加えたものが、今回の戦利品である。
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