魔王、目的を忘れて牛丼屋に吸い込まれる!

取りあえず、路地裏から表通りをスカレにチラ見させる。


場所は麻布十番の近くだ。向こうの世界と時差があるのか、今は午後3時頃といったところだった。それはそうだろうな、そもそも別の惑星だし。


「ッ、こ、これは!?鉄の塊が走っています!!」


あぁ、自動車の事か……


「落ち着け、スカレ、さっきそっちに移し替えた俺の知識に在るはずだ」

「はい……… ありました。自動車ですね、でも、知識にあるモノと実物では全然違います!」


暫し、瞑目した後に興奮気味に彼女が答える。


あぁ、そう言えば未知のモノに対する興味が強い娘だったな…… その彼女の紅い瞳は忙しなく動いている。


「あれが、びるでぃんぐですか?飾り気が無い様に見えますけど、洗練された雰囲気のある建物ですね……しかもどれも高いですわ、どうやって建築したのでしょうか?」


「そう言う疑問に答えてくれる大きな図書館にこれから行くんだ、そこで調べてもいいな」

「ほんとですか、おじ様!」


スカーレットが凄い勢いで食いついてくる。


「まぁ、今回の目的は向こうで再現可能な動力と発電の知識の補充だけどな」

「動力と発電ですか?」


「あぁ、向こうでシステム開発の環境を作る」

「しすてむ開発?申し訳ありません、蒙昧な私をお許しください………」


彼女は申し訳なさそうな表情をするが、短時間の精神干渉の魔法で渡せたのは日常会話程度の日本語と現在日本の街のイメージ、そこにある物の知識だけだ。


「構わない、先ずは換金をしたいが……」


人目に付かない様に表通りに背を向けて、空間魔法を展開し、握り込める程度の金塊を収納空間から取り出す。もちろん、ただの金塊で加工もされてなければ、刻印も無い。


このままでも換金できる店はあるかもしれないが……怪しい店なのは確定だし、安く買い叩かれる。いや、向こうの世界の錬金術で作った金塊だから原価はそれほどでもないのだけど…… そして、此処でも俺がこの世界で身に付けたスキル、一般常識が発動する。


刻印の偽造は犯罪です。


とり取りあえず、金塊に魔力を流し込んで加工を施していく。

無刻印の様々なゴールドアクセサリを作り出した。


「…………」


ふと気づくと、スカーレットがその内のひとつであるリングに魔術式をデザインとして刻んだ物を見詰めている。


「気に入ったか?では、それはスカレが持っているといい」


「ありがとうございます!……それと他の耳目がある場では、スカーレットとお呼びください。私もいつまでも子供ではありませんので……」


「分かった、気が回らなくて悪かったな」

「いえ、問題ありません」


その後、刻印のない貴金属アクセサリーを複数の質屋で売って当面の資金を得て、当初の目的地である都立中央図書館を目指し、スカーレットと歩いて行くが…… 目立つ、主に彼女が……グラマラスな色白美人だからな


ふとその時、何の脈絡も無く吉〇家が俺の目に留まった。


そう言えば、この体になってから半日以上、何も食べてない事に気付く。

そして俺はふらふらとその店に吸い込まれて行ったのだった。

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