魔王、東京都立中央図書館を目指す!
何とか、ヴェレダを手懐けた後に本題に戻る。
そう、一度、地球の日本に帰るのだ。
ダンジョン最下層の謁見の間、その玉座に坐して、仕立屋を迎える。玉座は少しだけ段差の上の高い位置にあり、その少しだけの階段を下りた場所の左右にスカーレットとヴェレダが控えている。
「王様、ご所望のものを仕立ててきました」
機織りや家事を行うキキーモラという幻獣が恭しく衣服を差し出す。
それをヴェレダが受け取って此方に持ってきた。
「イチロー、何だこれは、無駄にひらひらしてる」
つい先ほどから呼び捨てなのである、そう言えばマルコも俺を呼び捨てていたな……
「ああ、それはスカーレットが着るワンピースだ」
「こっちのは分かる、変わったデザインのズボンだ」
「それはジーパンと言う。あッ、こら、齧るな」
「ん、丈夫さを確かめて見た!」
いきなり、ヴェレダの噛みあとがついたんだけど……
「うん、中々の再現度だ。ありがとう、えっとモーラだったか?」
キキーモラは深く頭を下げたのちに退出する。
「スカレ、これに着替えて来てくれ。後は……」
スカーレットは吸血鬼だ。
しかし、地球で言うところの吸血鬼とは異なる。まさに、吸血“鬼”なのだ。
今まで特に触れていなかったが彼女の頭には悪魔の様な二本の巻角がある。それに、日の光やら十字架やにんにくなんかは何の効力も持たない。
「確か、角、隠せるよな?」
ブラドと人間の町に遊びに行けたぐらい平和な頃、あいつは角を隠していたはずだ。
「はい、では準備してまいりますね。覗いちゃダメですよ?」
そう言いながら、俺の寝室へ入っていく。
まぁ、自分の部屋まで戻るのも時間の無駄だからな。
「イチロー、あれは振りだ、きっとスカーレットは覗いて欲しがってる。時間があればいつもイチローの寝室へ行っていた」
「…………」
そりゃ、彼女が7歳の頃は“おじ様のお嫁さんになる”なんていっていたが、今それをやれば、都の迷惑防止条例に反してしまう。そんな、阿呆な事を考えているとスカーレットが戻ってくる。
「…… イチロー様、似合っていますか?」
「ああ、可憐だ」
彼女ははにかんだ笑みを浮かべている。
さて、俺も準備してこよう。
……………
………
…
これから、ゲートを開くがその前に説明すべき事がある。
「スカレ、これから地球と言う惑星の日本と言う国に行くが、そこは人間しか知的生命体が存在しない世界だ」
「……それは不愉快極まりない世界ですね」
隣を見るとヴェレダも嫌そうな顔をしている。
「で、彼らは滅多な事では殺し合いをしない、そしてそれは厳守される」
「本当ですか?彼らがそこまで高度な倫理観を備えていると?」
「あぁ、そんなに簡単に殺人は起こるようなものじゃない、人の数の割にはな。というわけでもめる事は厳禁だ。今回は向こうの世界を見聞する事に注力して欲しい」
最後にスカーレットに近付き、おでこを合わせる。
「あッ…」
「暫く、じっとしていてくれ」
彼女の頭の中に俺の日本語の知識と一般的な常識を精神干渉の魔法を使って送り込んでいる。
何か妙に熱っぽい気がするが、魔族は滅多な事では風邪はひかないし、大丈夫だろう。
「では、行くとするか、ゲート!」
門を開くと、ぼんやりと路地裏の景色が見えてくる。そこに、真っ先にヴェレダが飛び込んで行こうとしたので、その首根っこを捕まえる。
コイツを連れて行くと必ず揉め事を起こす確信がある。
というか、何故、自然に行こうとしているんだ。
「ヴェレダは取りあえず、留守番な」
「ぐぅ」
不服な表情をするヴェレダを残して俺達は門をくぐり、麻布に到着したのだった。
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