魔王、天狼の少女に会う
よし、大体、行くべきところは定まった!
職業柄、あれが無いと落ち着かないので購入したいが、先立つものは無い……
それと、術を解いて普通に戻った鏡に映る無駄に豪奢な衣装を纏った自分を見る。無駄に男前になっているのに加えて、今の服装ではあっちで浮きまくりだな…… しかし、ずっと眠っていたはずなのに何故に正装をしているのだろうか?
復活前に着替えさせてくれたのだろうか?
えッ、誰が!
「スカレ、魂が抜けている間の俺の身体の世話は?」
「勿論、全て私がさせていただきました。他の誰にも触れさせていません!」
スカーレットは頬に手を当てて、顔を赤くしながら答える。
「………、感謝する」
何処まで世話されていたのかは追求しないでおこう。
「それはそうと衣服を仕立てられる者はいるか?」
「?その魔王の正装以上に、御身を飾るに相応しいものがあるのでしょうか」
「一つ教えておこう、スカーレット。このままの服装で地球に行けば職質されるのだ」
「職質?ですか……それはどの様な」
「まぁ、色々と向こうの衛兵に絡まれる。面倒事は避けたい」
「分かりました、では当家の者を呼びましょう」
「それと、先立つものが必要だ」
「その地球?の通貨など御座いませんので、ミスリルやオリハルコンのインゴッド(塊)でも用意すれば宜しいのでしょうか?」
「いや、それはそれで、向こうで”謎金属発見”と一大ニュースになりかねん……金塊でいい」
「その様なものでよろしいのでしょうか?」
実はこの世界では錬金術がまさに成功しており、金の実質的な価値はそこまで高くない。向こう側の市場を混乱させるほどの量は迷惑をかけるから持ち込めないが、少しぐらいなら構わないだろう。
その後、スカーレットが自身の家に仕える仕立屋を呼びつけてくれたので、急ぎでTシャツとジーパン、パーカーの作製を頼む。なお、スカーレットには白のワンピースとカーディガンを仕立ててもらう。その間に金塊を用意して貰って、収納用の空間魔法を展開して中にしまい込んだ。
丁度その時、謁見の間が騒がしくなってくる。
そしてそれはこの寝室へと向かってきている様だ。
「邪魔しないで!あたしが王に会う事に何の問題があるの!」
「今はスカーレット様が王の帰還を迎えているはずです、今しばらくご辛抱を!」
という、会話の後にバーンと扉が開け放たれた。
そこには銀髪金眼の頭にぴょことしたケモ耳のある天狼の少女がいる。まぁ、魔族なので、見かけと年齢は比例しない。
長寿の魔族の身体は成長がある時期から極端に遅くなり、外見が変わりにくくなる。そして精神もゆっくりと成長する。精神の成長が早いと先に心が死ぬからだ。ゆえに少女と称しても構わないだろう。
その少女がおもむろに跪いて首を垂れる。
「お初にお目にかかります。天狼マルコシアスの娘、ヴェレダに御座います」
マルコの娘?あのよく涎を垂らしていた3歳児か?
いや、獣人系の子供は抱っこすると舐められまくって涎まみれになるのは当たり前だが……
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