「…フフフ」

 紗夜が笑い出した。

「アハハハハハハ!」

「何がおかしいのよ!」

 祈裡が涙ながらに訴える。

「全部ですよ。氷威さん、今のは嘘です」

 嘘…?

「パンゲアって話は、あなたを怖がらせるためにみんなで知恵を出し合って考えた作り話ですよ。忠義の銃も、ただのモデルガン。火薬を詰めて音だけ出るようにしたんです」

 氷威は体に手を当てた。確かにどこも怪我をしていない。

「ここに集まってる人も、みんな知り合いですけどね、流石に同年代ばかりじゃ警戒されると思って…。大変だったんですよ、お年寄りから子供まで集めるのは。」

「じゃあ何だ? これはただの悪ふざけってこと?」

「そうです」

 紗夜はニコッと笑って答えた。

「何でこんな…!」

 怒ろうとしたが、紗夜はさせなかった。

「氷威さんは怪談話を集めて、全国の人を怖がらせるおつもりでしょう? そういう人が怯えさせるにはどうすればいいか、そもそも怖がるのか、見てみたかったんです!」

 もはや呆れて何も言えない。

「お礼はいりませんよ。氷威さんの怯えた顔が拝めただけで十分ですから」

「当り前だ。こんな手の込んだドッキリに誰が金をやるかよ!」


 さっさとシャッターを上げてもらい、店を出た。

「あーあ! イライラするぜ! こんな話は絶対本には載せないぞ! 祈裡、居酒屋に行って飲もうぜ!」

「そうね。今日は私もすっごく不愉快!」

 まずはホテルに戻ろう。

 だが歩き出そうとした時に、男性に呼び止められた。

「氷威さん!」

「誰?」

 知らない人である。

「こんなことを言っても信じてもらえないかもしれません。でも話を聞いてください!」

「一体何の?」

「さっきレストランでしていた話です!」

 それなら嘘偽りの出鱈目なんだろう? もう耳は傾けない。

「お願いします!」

 ここで大声を出されても困る。仕方なく近くの公園で少し、話を聞くことにした。

 男性は名前を教えてはくれなかったが、

「あの話は自分の身に起きた本当の出来事?」

 そんなバカバカしい話がどこにあるか!

「本当なんです! 私は元々、この世界の人ではありません。あの少女が話を募集していて、その事情をよく聞くと、本に載る話を、とのことだったので、教えたんです。」

「…証拠は何かあるわけ?」

 祈裡も疑いの目を向けた。

「あの話を聞いて、違和感はありませんでしたか?」

「違和感?」

 あまり感じなかったが…。

「どうして元いた世界と言語が同じなのか。なぜみんな日本に来たのか。そんなに簡単に、一個人がインターネットで特定の人物を探し出せるのか。そもそも並行世界は元いた世界とこの世界の2つしかないのか。」

 言われてみれば、紗夜のパンゲアの話は都合が良すぎる。聞いてる時には気がつかなかったが、割と粗がある…。

「じゃあ、何なんだ?」

「私は、話に出てくる鈴蘭その者です。名前は違いますよ、彼女は私のことをモデルに、知り合いのカップルを話に登場させました。そのように脚色されていたから、粗が出るんです」

 男性は続ける。

「実際の私は、仲間を誰1人として見つけ出せていません。お願いです。あの話を本に載せて下さい! 話全体は入れなくてもいい。ただ一言、書いていただければそれでいいんです!」

 さっきドッキリを食らったばかりですぐに信用するわけにはいかないが、この男性が嘘を言っているようには見えない。目が真実だと伝えてくる。

「そこまで言うならわかったよ。じゃあ、何を書けばいいのさ?」

 氷威が聞くと、男性は、

「パンゲア」

 とだけ答える。

「それだけでいいんです。私の世界にいた仲間は、それだけで気付いてくれるはずです」

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怪体心書 杜都醍醐 @moritodaigo1994

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