「なるほどね…」

 ネットでよく聞く、異世界に迷い込んだ系の話だ。しかしそこから、同じ世界にいた人と再会したって話はあまり聞かない。そこは新鮮だった。

「…まだ続きがあります」

「そんなもの?」

 祈裡が聞く。

「…同じコンパスの針で刺されたものがこっちの世界に飛ばされたというのなら、鈴蘭って男と刺し違えた桜井も、この世界に来てるってことですよね?」

「まあ、そうなるね」

 氷威は頷く。言われてみればそうだが。

「…さて、鈴蘭と横山は本当に再開して終わりでしょうか?」

「はい?」

「…普通なら思いませんか? 横山を探せたのなら、桜井も、いや他のみんなも探せるのではって。そして鈴蘭はそれを実行するわけですよ。みんな、パンゲアの一言に反応しました。だから簡単に探し出せたわけです」

 紗夜の話はどんな方向に向かうのかと思って聞いていると、急に祈裡が震え出した。

「どうした?」

「周りの人…」

 周り? 今日は休日で混んではいたが…。

「…!」

 みんな、こちらを見ている。店員も客も。子供も大人も。違う方を見ているのは、誰もいない…。違う、2人はこちらに背を向けている。

「…気がつきましたか、氷威さん。考えればわかることなんですけど、並行世界に誰よりも詳しかった桜井は、報復を恐れて名前を変え、あたかも元からこっちの世界で暮らしているように装うわけですよ。でも、信じるものは隠しきれない」

 淡々と話し続ける紗夜に恐怖心を抱いた。まるでその桜井が、今、この場にいるかのような口ぶりだ…。冷や汗が体中から分泌されるのを感じる。

「…もう手遅れでしょうね、桜井は。かつて松坂を飛ばした時に一緒に飛ばしたソファに座っていて、どんな気分です?」

 店員が店のシャッターをガラガラと下ろした。まだ店内には自分をはじめとした客がいるのに。心臓の鼓動が急に速くなる。

「…もしかして、みんな赤の他人と思いますか? 桜井が何人飛ばしたのかはわかっていません。けれどここに収容できるくらいの人たちは見つけ出すことができました。シャッターは下してしまったし、ここで何が起きても誰も、気がつきませんよね?」

 紗夜がそう言うと、背を向けていた2人が立ち上がり、こちらにやって来る。

「久しぶりだね、桜井。僕だよ、鈴蘭。やっと君を見つけ出せた」

 男の子が言う。

「私たちはきっと、元の世界には帰れないのよね。だってあなたはコンパスの針、持ってないから。それともまた、私にいやらしい目を向けるの?」

 女の子が言う。

「ちょっと待って! 俺は桜井じゃない!」

「…そうですね。今は。でも本当は桜井なんでしょう? 往生際が悪いですよ? これは因果応報ってやつですよ」

 紗夜が言うと、鈴蘭と名乗った男の子が懐に手を突っ込む。

「何が出ると思う?」

「ま、松坂って人の携帯?」

 祈裡が答える。

「残念外れ。正解は…拳銃でした!」

 男の子の手には、1丁のリボルバーが握られている。それを見ると血の気が引いた。

「これはこっちの世界の警官が持ってる、ニューナンブM60って拳銃。これぐらいしか手に入んなかったんだけど、十分さ」

 と言って撃鉄を引いて、銃口を氷威に向ける。

「だから違うって!」

 そう叫んだが、遅かった。既に鈴蘭は引き金を引いており、バン、と銃声が店内に響き渡った。

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