その九 パンゲア

 ついに津軽海峡を越えた。ここまで来るのは生まれて初めてだ。この旅もついにクライマックス。話はいくつも聞いたが、さらにそこから厳選するつもりだ。これが一番と感じた話には、提供者に何か贈ろうか。そんな話を祈裡としている。

 今向かっているのは、レストランだ。そこに相手が待っている。

 店内に入ると、混んでいた。今日は休日だし時間帯は昼だし、当たり前と言える。

「あ、あの子じゃない?」

 祈裡が先に発見した。今日、話を教えてくれる人。美術高校に通っているらしく、目印にわかりやすいベレー帽をかぶっていた。

「こんにちは。如月きさらぎさんですか?」

「…はい、そうです」

 頷いた。本人のようだ。

 氷威と祈裡が席に着くと、店員がお冷をくれた。それを一口飲んで、ノートパソコンを立ち上げた。

「…今日お2人に話したいのは、パンゲアという話です」

 それだけ聞くと、どうしてもウェゲナーの大陸移動説を思い浮かべてしまう。でも内容は別物らしい。

「…お2人にだけ、特別ですよ? 本当は信じてもらえないだろうから、話したくないんですけど…」

 紗夜はそう言ったが、彼女の目が嘘を言っているようには見えない。

「信じるよ。全部ね」

 今まで会ってきた人たちは、他人なら嘘の一言で片づけられるような話を持っていた。でも氷威も祈裡も、疑ったことはない。相手が語る話を、怪談話として聞くだけだ。

「…これは、とある人の話です」

 話はそこから始まった。

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