参
「静ちゃん、お休みなさいね。」
看護婦さんにそう言われ、布団を掛けられた。でも私は寝るつもりはなかった。布団に包まってケイが来るのを静かに待った。
「起きて! 静ちゃん!」
どうやら眠ってしまったようで、ケイの声で起きた。
「今はもう夜中の2時。みんな寝てる。さあ行こう!」
ベッドから降りて、病室を出た。廊下はもちろん暗い。お化けが出そうなくらいだ。
「本当に今、行くの?」
私は急に怖くなった。でも、
「私がいるから大丈夫!」
ケイは引き下がることを考えていなかった。
非常用の懐中電灯をつけて、ケイが先頭なり、私は後を付いて行った。
最初に向かったのは、院内教室。いつもは明るい時にしか行かない場所。こんなに暗いのは初めてだ。昼間と印象が全然違う。教室内に飾ってある、生徒の描いた絵が不気味に見える。私が描いたのも例外ではない。壁から剥がしたい気分だった。
「次はどこに行こうか?」
私的にはもう満足だったけど、ケイはまだ物足りなさそうだった。
「是非とも静ちゃんに来てもらいたいところがあるの。そこにしない?」
どこだろう? 私は頷いて、ケイと一緒に階段を下りた。
この病院に地下室があったことを、この時初めて知った。
「何て読むんだろう?」
私はドアノブに手をかけた。だけど鍵がかかってるからか、開かない。
「駄目みたいだね」
ケイが代わった。1度ドアを叩いてドアノブを回すと、カチャっと音がした。そしてケイはそのままドアを開いた。
「入れるよ!」
私は不思議に思ったが、同時に部屋の中にも興味が湧いてしまい、一緒に入ることにした。
部屋の中には、壁一面にロッカーの様なものがずらりと並んでいた。
「こんな所に何を預けるのかな?」
私が呟いた一言に、ケイが反応した。
「遺体だよ」
「え?」
ケイは確かにそう言った。
「静ちゃん、この部屋はね、病院で死んじゃった人が入れられるところなの。今日は誰も死んでないから、全部空っぽだけど。でも死人が出ると、入れられるんだよここに」
この時私は恐怖した。ケイはもしかして、ここに私を閉じ込めようとしているんじゃないか? こんな所に1人残されるのは嫌!
私が出ようとしたら、ケイが腕を掴んで放さなかった。私よりも力が強かったケイから逃れることは不可能だった。
「静ちゃん、今この部屋を出たら死ぬよ?」
ここに残っていても、死ぬ気がする――
私は泣きそうになったが、ケイは、
「こっちに来て。私がいれば大丈夫。静ちゃんがアイツに捕まることはないから」
「アイツ…?」
私は涙声で質問した。
「もうちょっとこっちに隠れよう。じゃないと見つかっちゃうよアイツに」
私とケイは霊安室の隅っこの方に隠れた。入り口からではまず見られない所だ。
私はもう泣いていた。パジャマの袖が涙で濡れていたのを覚えている。ケイは頭を撫でてくれたが、ケイのことも怪しいと感じていた私はそれでは安心できなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます