「静ちゃん、お休みなさいね。」

 看護婦さんにそう言われ、布団を掛けられた。でも私は寝るつもりはなかった。布団に包まってケイが来るのを静かに待った。

「起きて! 静ちゃん!」

 どうやら眠ってしまったようで、ケイの声で起きた。

「今はもう夜中の2時。みんな寝てる。さあ行こう!」

 ベッドから降りて、病室を出た。廊下はもちろん暗い。お化けが出そうなくらいだ。

「本当に今、行くの?」

 私は急に怖くなった。でも、

「私がいるから大丈夫!」

 ケイは引き下がることを考えていなかった。

 非常用の懐中電灯をつけて、ケイが先頭なり、私は後を付いて行った。

 最初に向かったのは、院内教室。いつもは明るい時にしか行かない場所。こんなに暗いのは初めてだ。昼間と印象が全然違う。教室内に飾ってある、生徒の描いた絵が不気味に見える。私が描いたのも例外ではない。壁から剥がしたい気分だった。

「次はどこに行こうか?」

 私的にはもう満足だったけど、ケイはまだ物足りなさそうだった。

「是非とも静ちゃんに来てもらいたいところがあるの。そこにしない?」

 どこだろう? 私は頷いて、ケイと一緒に階段を下りた。


 この病院に地下室があったことを、この時初めて知った。

「何て読むんだろう?」

 霊安室れいあんしつ。今なら読めるし意味もわかるが、当時の私には無理だった。でも、その部屋の周りの雰囲気の悪さは、夜だからで通用するものではなかった。

 私はドアノブに手をかけた。だけど鍵がかかってるからか、開かない。

「駄目みたいだね」

 ケイが代わった。1度ドアを叩いてドアノブを回すと、カチャっと音がした。そしてケイはそのままドアを開いた。

「入れるよ!」

 私は不思議に思ったが、同時に部屋の中にも興味が湧いてしまい、一緒に入ることにした。

 部屋の中には、壁一面にロッカーの様なものがずらりと並んでいた。

「こんな所に何を預けるのかな?」

 私が呟いた一言に、ケイが反応した。

「遺体だよ」

「え?」

 ケイは確かにそう言った。

「静ちゃん、この部屋はね、病院で死んじゃった人が入れられるところなの。今日は誰も死んでないから、全部空っぽだけど。でも死人が出ると、入れられるんだよここに」

 この時私は恐怖した。ケイはもしかして、ここに私を閉じ込めようとしているんじゃないか? こんな所に1人残されるのは嫌!

 私が出ようとしたら、ケイが腕を掴んで放さなかった。私よりも力が強かったケイから逃れることは不可能だった。

「静ちゃん、今この部屋を出たら死ぬよ?」

 ここに残っていても、死ぬ気がする――

 私は泣きそうになったが、ケイは、

「こっちに来て。私がいれば大丈夫。静ちゃんがアイツに捕まることはないから」

「アイツ…?」

 私は涙声で質問した。

「もうちょっとこっちに隠れよう。じゃないと見つかっちゃうよアイツに」

 私とケイは霊安室の隅っこの方に隠れた。入り口からではまず見られない所だ。

 私はもう泣いていた。パジャマの袖が涙で濡れていたのを覚えている。ケイは頭を撫でてくれたが、ケイのことも怪しいと感じていた私はそれでは安心できなかった。

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