「そして夏休みが明ける前に、本当に大内病棟だったことが小野寺の両親が実際に行ってみてわかった」

 良子は話をそれで締めくくった。

「でもわからないことが1つある。もし小野寺が偽物だったというのなら、その偽物は、何がしたかったんだ?」

 氷威は、良子の話を聞いてある程度理解し、ある推測を立ててみた。

「もしかしてだけど、良子さんたちに探してもらいたいものがあったんじゃないかな?」

「と言うと?」

 クエスチョンマークを頭の上に出した良子に、自分の推理を聞かせた。

「小野寺の偽物は、地下室に行こうって言ってるよね。だとするならば行きたかったのは地下室で、そこに何かあったなら…。水浸しの地下室で人体実験が行われていたのなら、それはその時に無残にも使用された自分の本当の体なのかもしれない」

 良子の言う偽の小野寺の言動も、この考えが正しければ説明がつく。

 急かしたのは、早くしてほしいから。

 1度も名前で呼ばなかったのは、本当は偽物で、みんなの名前も知らないから。

 プールじゃないと否定したのは、本当は何の場所か知っているから。

 逃げる時に待てと言ったのは、あともう少しで目的を果たせるから。

「でもこの廃墟、私たちに存在しない3階に行かせようとしてるんだぞ? そこに行ったら死んでいたかもしれないんだ」

 良子の最後の疑問に氷威は答える。

「でも偽物が呼び止めてるよね? 廃墟は君たちをあの世へ連れて行こうとしたのかもしれないけど、小野寺の偽物の意見は違ったんだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る