肆
「良子さん、それじゃあただの廃墟探検記だよ…」
怪談要素は一切なし。これで金を払うのは詐欺だ。氷威は思ったが、
「じゃあこれを見てくれ」
ビデオカメラの録画映像を見せてくれた。
「えっと、おかしくないかい?」
良子が話した内容が作り話なのか、それとも映像が間違っているのか…。
「一番怖いのは、そこなんだよ…」
良子は話を続けた。
心霊スポットに行った次の日のことだ。3人にメールが来た。送り主は小野寺で、内容は、昨日行けなくてすまなかったという謝罪。
私はすぐに、一緒にいたじゃないかと返信した。でも小野寺は行ってないと主張する。
幸いその日は私も小野寺も用事はなく、公園近くの喫茶店で落ち合うことになった。
「行けてるわけねえだろ! 昨日は交通事故で急患が入って、父さんも母さんも大変だったんだ。俺も姉貴も手伝わされたんだから!」
小野寺の言う通り、交通事故はあった。朝刊にも載っていた。
「だがお前は、一緒にいただろ?」
「だから昨日の夜はずっと、家の病院にいたんだよ!」
私は小野寺が嘘を言っているとしか思えなかった。だがその時に小野寺の姉に電話をしてもらい、確認が取れた。小野寺は確かに、昨日の夜は病院にいたのだ。
「じ、じ、じゃあ、このビデオカメラに写っているのは…?」
私と小野寺はビデオカメラの録画映像を確認した。
最初は写真撮影機能で、1枚撮った。
「遠藤と植木のツーショットか」
何も知らない小野寺はそう言った。だがその写真、遠藤の横に小野寺が写っているはずなのだが…。
次に映像を見た。
「何もねえところを写すなよ」
小野寺は言う。
「変だ…。私は懐中電灯で照らした後に電源を入れたはず…」
「熊谷の勘違いじゃないのか?」
いや確かそうだったはずだ…。
映像に戻る。
「入っても…大丈夫だよね?」
「鼻が曲がりそう! マスク持って来ればよかった…」
「2階に上がれるみたいだぞ」
「何があるのかなー?」
私、遠藤、植木の声は録音されているのに、小野寺の発言は一つもなかった。途中遠藤や植木を映した。それはあっても、小野寺は映像のどこにも映ってない。
「やっぱり3人で行ったんじゃねえか。これの何処に俺がいるって?」
「…」
私は、言い返せなかったから無言だったわけではない。小野寺が一緒にいなかったら、じゃあ、あそこにいたのは? そう考えると口を動かせなかった。
「おいちょっと待て」
小野寺が映像を止めた。
「植木のヤツ、間違ってるぜ」
「…何がだ?」
「これはハサミじゃねえ。ペアンだ」
「ペアン?」
小野寺が言った言葉の意味がわからず、聞き返した。
「ドラマとかでよく見ねえか、手術のシーンに。止血するために使うんだ」
そういえば、小野寺の家系は医者。なら小野寺がペアンを知っていてもおかしくない。
だが昨日の小野寺の発言は、それを考えるとおかしい。
「人でも殺したんじゃねえの?」
もし本物の小野寺が現場に居合わせたのなら、そんな事は言わないでここは手術室だ、と言うはずだ。あのセリフは、あり得ない。
「もう、止めよう」
私は映像を止めようとした。だが小野寺は見続けた。
「これも針金じゃねえ。カテーテルだな」
色々と突っ込みながら映像を見る。
「おや?」
映像を止めたのは、遠藤の発言の後。
「ど、どうした?」
私は何か映っていたから止めたと思ったが、違うようだ。
「30年前に使わなくなった…。もしかして、
なんと小野寺は、噂程度ではあるものの、この廃墟のことを知っていた。
「家に帰ってから確認してみっけど、絶対そうだぜ。だとしたら、あの病棟は2階建てだったはずだな」
映像を再生した。
「地下室に行ったのか!」
小野寺は驚いた。
「地下室も存在しないって言いたいのか?」
聞き返した。すると、
「これが大内病棟なら、地下室はヤバいぜ。
この後の会話は、記憶にない。少なくともこの日、本物の小野寺は一緒にいなかったことだけはわかった。
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