歩いて40分。目的地に着いた。懐中電灯で照らしてみる。外見はいかにも森の中の廃墟って感じ。

 ここから私はビデオカメラの電源を入れた。以降この廃墟を出るまで、全て録画してある。

「入っても…大丈夫だよね?」

 植木が言った。普通に考えたら不法侵入…。

「いいだろ、誰も怒りやしねえよ」

 小野寺がそう言うと、みんなで入った。

 当たり前だが廃墟は、掃除は何もされていない。酷い臭いがした。

「鼻が曲がりそう! マスク持って来ればよかった…」

 遠藤が鼻をつまみながら言った。他のみんなは無言で耐えていた。

 奥に進むと、突き当りに階段があった。

「2階に上がれるみたいだぞ」

 私は上を撮影しながら言った。

「何があるのかなー?」

 遠藤がまず上っていく。その後に続く。

 二階にはいくつか部屋があった。一番近くの扉を開けて中に入った。ベッドのようなオブジェがあった。その近くにはハサミが散乱している。

「いかにも訳ありって感じだね…。ハサミを使って、ここで何をしていたんだろう?」

 植木が呟く。

「人でも殺したんじゃねえの?」

 小野寺が答える。植木はブルブル震えていた。それを見て私は笑っていた。

 その部屋から出て、隣の部屋に入った。その部屋もさっきと同じ様子だった。散乱していたのはハサミではなく針金だったが。

 私は遠藤に聞いた。

「美波、ここの情報は何かないのか?」

「えっとー。30年前から使われなくなったって、ネットに書かれてたよ!」

 遠藤に質問した私がバカだった。私は自分の携帯を取り出した。

「ん?」

 電波がない。圏外だった。

「熊谷さんもかい? 僕もだよ」

 植木が携帯の画面を私に見せた。私と同じで、アンテナのアイコンが1本も立っていない。

「まさか、よく幽霊が出ると電波が悪くなると言うが…」

「ほ、本当にそうなら今すぐ出てきてもらいたいぐらいだね!」

 どこまでも強がることを忘れない植木。

「呼んだぁ?」

 小野寺が懐中電灯で、顔を下から照らしながら近づいて来た。

「うっわ!」

 驚いた植木は転んだ。

「こんなところで悪ふざけか。小野寺も子供だな」

「そういうお前は驚かないなんて、何て大人げない…」

 まだ階段が続いていたので、3階に行ってみることにした。が、

「そういや、地下室に続く階段もあったな。行ってみねえか?」

 小野寺が止めた。

「僕はどっちでもいいよ。遠藤さんと熊谷さんはどう?」

「なら先に地下、行ってみようよ。ねえ、良子?」

 植木がどっちでも良くて、遠藤が行きたいと言うなら断る気にはならなかった。

「じゃあ降りるか」

 私たちは階段を下りて、地下に行った。

 階段が終わると、同時に地下室への入り口があった。錆びついているのか、ドアノブが回らない。

「開かないね」

 遠藤が言った瞬間、

「そおれ!」

 小野寺と植木が扉に体当たりをした。扉はドンっと音を立てて開いた。そしてみんなで、地下室に入った。いや、入れなかった。

「何だこりゃ? こんなに水が溜まってやがる…」

 小野寺が最初に気が付いた。地下室の扉は、床より20センチほど高い。だから階段からではわからなかった。地下室は懐中電灯で照らしても濁っていて何も見えない程汚い水でいっぱいだった。

「これは、元からプールだったとか?」

 植木が言った。

「じゃあ、死体洗いのアルバイトでもしてたのかな?」

 遠藤が唐突なことを言った。

「そんなはず、ねえ! もっと見てみようぜ。」

 小野寺は探索する気だが、直後に植木が言った一言が、そうはさせなかった。

「あの都市伝説って、ホルマリンでプール作るんだよな?」

 ホルマリン!

「毒物じゃないか!」

 私は叫んだ。同時に後ろに下がった、いや、地下室から逃げた。

「おい、待てよ!」

「良子!」

「ぼ、僕も逃げる…」

 みんな私に続いて逃げてきた。

 気が付くと、廃墟の外にいた。再び入る気にはなれず、そのまま帰ることになった。

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