「町外れに心霊スポットがあるんだって!」

 当時同じ班だった遠藤えんどう美波みなみが言った。遠藤はお世辞にも頭が良いとは言えない子だ。親は大学教授らしいが、教育は厳しくないらしい。夏休みは赤点補習で決まりだ。

「幽霊? いるわけねえだろそんなもの!」

 そう返したのは小野寺おのでらしょう。コイツも、両親が医者、姉が現役の医学部生とは思えない程バカで、今回の試験はカンニングで乗り切ったようだ。

「何だよ小野寺、ノリが悪いじゃないか。もしかして怖いの?」

 植木うえき試錐しすいが言った。植木は遠藤や小野寺とは違い、勉強はある程度できるタイプである。きっと銀行員の親がちゃんと勉強を見ているのだろう。

「何だと植木! 俺を馬鹿にしてんのかよ!」

 放っておくと、勉強だの成績だのといつまでももめる。

「まあ待て」

 私は2人を止めた。

「小野寺が馬鹿なのは確かだが、植木も威張れるほど好成績じゃないだろ。」

 こう言うと、大抵2人は止まる。

 止まったところで遠藤が、

「行ってみようよ良子。お化けが出るかもしれないんだよ?」

 私としては、遠藤の話に乗ってみるのも悪くないと思った。だが小野寺と植木は、

「お化けが幽霊がって、子供かよ? 俺はそんなモノ、絶対に信じねえよ」

「僕も流石に。心霊スポットって、行って良かったって話は聞かないな…。別に怖いわけじゃないけど」

 怖いくらいに消極的だった。

「2人とも口だけだな。小野寺は存在しない、植木は怖くない。ここで叫んでても、説得力の欠片もない」

 あえて挑発した。すると、

「何だと熊谷! よーし見てろ、俺に泣きついても知らねえぞ!」

「本当に怖くないさ。場所がどこでもね!」

 と言う。小野寺も植木も、扱いに慣れればなんてことはない。

「じゃあさ、終業式始まる前に予定建てようよ。私多分赤点だから、夏休み中のこの日は駄目で…」

 遠藤が手帳を開く。

「俺もその週は補習だぜ」

「僕はいつでもいいけど?」

「私は早い方がいいな。面倒な用事は休みの前半に済ませたい」

 ということで、心霊スポットに行くのは7月下旬となった。


 集合場所は、学校最寄りの駅。それぞれ高校生になって知り合ったから、それが一番早かった。

 私は夜九時に着いて、一番乗りだった。その後遠藤がすぐやってきた。

「後は小野寺君と植木君だね。待とうか」

 しばらく2人で待った。

 目の前に車が1台止まった。そこから植木が降りてきた。

「本当なら時間通り間に合うはずだったんだけど、交通事故で道路が通行止めになっててさ…」

 と謝ることよりも言い訳が先だった。

「後は小野寺だけか…」

 私が言うと後ろから、

「俺ならもういるぜ?」

 と声がした。振り返ると小野寺がいた。

「お前たち、遅すぎだぜ。もう何時間待ったか…」

 私が一番だったので、小野寺は遅刻で間違いない。遅れてきたのを誤魔化してきた。

「みんな揃ったなら、行こう!」

 遠藤が歩み出そうとした時、私が止めた。

「ビデオカメラを持って来た。これで撮影してみよう。写真も撮れるから、撮るぞ。並べよ」

 小野寺、遠藤、植木の順に並ばせ、写真を撮った。

「それでいいか? じゃあ、早く行こうぜ!」

 小野寺が急かした。やけにはしゃいでるなコイツ。

「そんなに急いで。後で泣いても知らないよ? ま、僕は全然怖くないけどね!」

 そういう植木は、少し震えている。強がってる証拠だ。でも先陣を切ろうとする。

「しゅっぱーつ!」

 遠藤はいつも通りだ。緊張感が全く感じられない。目的地は遠藤しか知らない都合上、もっとしっかりしてもらわないととても不安なのだが。

 これから心霊スポットに向かう一行とは思えない。でもそれぐらいで十分だ。変に怯えていてもことが進まないから。

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