「それは、本当にお姉さんが書いたの?」

「はい。確かに姉の字でした」

 家族には見せていません。見せられるものではありません。

「じゃ、じゃあ、葵さんのお姉さんは……」

「…多分、そうだと思います」

 姉は、呪いの言葉を信じてしまい、自分が呪われていると思い、死を選んだんだと思います。思い返せば姉の人生は苦難だらけでした。ずっとRのことを思い続けたにも関わらず、その想いは報われることがなく、ただ自分が苦しむだけの人生。

「こんなことを言うのは、とは思いますが、言わせて下さい。もしもRが呪いの言葉を教えなければ、いや姉がRと出会わなければ、たとえ同じ人生であったとしても姉は自分が呪われているなんて考えなかったと思います。そこまですることはなかったと思います」

 だからこそ、私はRが憎いです。Rが今、どこで何をしているのかは、わかりません。でも、本来なら自分に向かうはずだった呪いや不幸を、Rは全部姉に押し付けたんです。そんなことをされて、許せるはずがありません。

「………そういう事情があるのか…。でも、Rもそれで苦しんでるんじゃないの?」

「Rにとって姉は、ただの身代わり…。大切に思っているなら、苦しんでいるなら、どうして会いに来ないんですか!」


「すみません、いきなり怒鳴って。でも、私はRのことがどうしても許せないんです」

「大丈夫だよ。周りのお客さんもホラ、気にしてないみたいだから」

 葵に何を言っていいのか、氷威にはわからなかった。今の彼女には、どんな言葉を言ってあげても、慰めの言葉としか受け取らないだろう。

「…氷威さん、今話したことはどうしても本にしないといけないのですか?」

「そういう方針だから…。一応名前は仮名にはするけど…」

「私、呪いの言葉を忘れられると思いますか?」

 あと5年。その間、姉の死の真相を自分の中にだけ留める…。そして姉が想いを寄せた人を憎む…。自分が助かりたいなら、それら全てを忘れなければいけない…。

 氷威は口には出さなかったが、答えがわかっていた。葵の服装、注文したジュース。もう葵は、この呪いに魅入られてしまっている。


 取材が終わり、民宿に帰って来た氷威。葵から聞いたことを一通りまとめる。

「どうだった? 彼女は?」

「1種の都市伝説が、本当かどうか…」

「は?」

 恐らく葵の言う、呪いの言葉は自分も知っている。よくある怪談話の1種であったはずだ。その言葉に力があるかどうかが重要ではない。自分が呪われていると自覚してしまうかどうかなのだろう…。

「葵さんはまともな人だったよ。きっと本当は、心のどこかで彼を許してあげたいんだと思う。じゃなければ今日、俺に話すと思うかい?」

 会ってくれなかった。それは裏を返せば、Rに姉と一緒にいて欲しかったって意味だ。

「…いまいち状況がわからないー。一旦寝て、明日教えてよ」

「わかった」

 今日はもう寝よう。でもその前に、まとめた文章の最後に一文を追加した。


 彼女が呪いから解放される日を願ってやまない。

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