弐
私には6つ上の姉がいました。
「なるほどね。なら葵さんは、2人の姉兄に対して疎外感を感じていたのかな?」
「それは無いです」
寧ろ、姉と兄が楽しそうに話すので、毎日聞くのを楽しみにしていました。
その会話の中で、頻繁に出てくる人がいました。仮にこの男子をRとします。聞く話が正しければ、確か小学3年生ぐらいでしょうか。姉とRは出会いました。
「その、Rって人が、葵さんが憎いって言う人?」
「…そうです」
「どうして憎いんだい?」
「理由は後で教えます」
Rとは同じ水泳教室に通っていたと聞きます。最初の頃はRもさほど重要ではないと思っていました。同じ習い事に通うクラスメイト。姉はそういう認識だったと思います。
でもある日、突然変わりました。
「Rが何かしたの?」
「はい」
姉が急に、怪談話とかお化けとか、都市伝説とかを好きになり始めたんです。そんな様子は今まで見せたことがありませんでした。幼い私には、姉が他のことを趣味にしているようには見えませんでした。つまり姉は、怪談話に夢中になっていったんです。そしてこの頃から、Rが会話に出てくる頻度が急増しました。
「教えたRのことを気にするようになったってことだね。でもそのくらい、よくあることでない? そしてその後上手くいかなくなったからと言ってRを憎むっていうのは」
「違います。姉はRとは、中学時代も上手くやっていけたんです」
私は姉ではありませんし、自分の主観も有りますから一概には言えないんですけど、姉はRのことが好きだったんだと思います。私が小学3年生の時、姉は今の私と同じくらいです。その頃はもう、毎日Rの話題が出ていました。
当時の私は姉に勉強を教えてもらっていました。その姉が散々口にする、Rという人は一緒にいると楽しくて仕方がないのだろうと思いました。私もRに会ってみたいと思ったほどです。
姉はRに対して、特別な感情を抱いていると思える行為をしていました。受け取った年賀状を、Rの物だけは自分の机の中に入れたり、アルバムから、Rが写っている写真を取り出したり。Rから借りた本を、抱きしめているのも見たことがあります。
「…ならそのRと、葵さんの姉は付き合っていたってこと?」
「……そうではないんです」
確かに何度か、姉の口から、Rと付き合えたらって話は出てきました。中学時代に交際しても結婚までは行かないだろうとも言ってはいましたが、それは口先だけで本気で生涯を供にすることを考えていたかもしれません。
「今思えば、中学時代が姉の幸せの絶頂期だったのかもしれません」
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