その六 紫鏡
壱
「今回の人は大丈夫…じゃなさそうね」
パソコンの画面を祈裡が見ている。
「どうしてそう思う?」
氷威は、基本的に募集に食いついた人なら誰にでもインタビューしている。正直怪しそうな人や話もあるにはあるが…。それは聞いた後で自分で判断する。
「だってこの人、名前以外一切記載してないんだよ? しかもその名前も、ジョウジマアオイって全部カタカナ…。絶対何かあるってこれ!」
「そういう人から、すっげー話が手に入るかもしれないんだぞ? 向こうから食いついてきた大物をみすみす逃すもんか!」
「はあ呆れる。いつか酷い目に遭うよこれは…」
祈裡がそう言ったが、氷威は聞こえないフリをした。
約束のカフェに来た。ここで3時の約束である。先に席に座って待つ。
「天ヶ崎、氷威さんですか?」
声をかけてきたのは、中学生くらいだろうか。まだ幼さを捨てきれない顔の女の子だ。ワインレッドのワンピースを着ている。
「えーと、ジョウジマアオイさん?」
「はい。私が
「君はどんな話を持ってきてくれたのかな?」
聞くと葵は一度黙り込んだ。そして、
「…正直言うと、怖い話かどうかは…」
「それは俺が判断するよ」
「そうですか。なら話します。あ、でも、私が話したことは全部忘れて下さい」
何を言う? いきなり意味がわからないぞ…?
「と、言うと?」
「私も話した内容は全部忘れます。というより、誰かに話して忘れるために来ました。もう覚えておきたくないんです」
雲行きが台風より怪しくなってきた…。祈裡の言う通り、何かありそうだ。
「とりあえず何か飲もうか? ジュースは何が欲しい?」
「では、ファンタグレープで…」
注文した飲み物はすぐに運ばれてきた。葵は一口飲むと、話し出した。
「氷威さんは、誰かが憎いと思ったことってありますか?」
「俺? いや、全然だな…。俺は孤児院の出だから、寧ろみんなに感謝しながら生きてるよ」
「そう…ですか。そんなあなたが羨ましいです」
もう一口ジュースを飲むと、本格的に話し出した。
「私の姉の話をします…」
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