着いたところは、港でした。

「海を渡る。貴様には、我輩の親戚の家で暮らしてもらう」

 また勝手に…。流石に私も黙ってはいられませんでした。

「まだ何も説明を受けてない! 勝手に決めるな!」

「じゃあ勝手に死ね」

 ここで私は、この少年に見捨てられたら本当に終わりだと思いました。そう感じさせるには十分すぎる台詞でした。

「わかった。でも説明をしてくれないか? あの日以降、俺はどうなってるんだ? 呪われてるのか? ならどうして、あんたの顔は普通なんだ?」

「よろしい。では真実を全て、飲み込む覚悟があると」

 私は無言で頷きました。


 彼によれば、私が遭遇したのは伝承にある、マガタマヲトコで間違いないそうです。マガタマヲトコの逆鱗に触れてしまった者は、自分以外の顔がマガタマヲトコに見え、発狂して死んでしまうそうです。そして私が死ななかった理由も、彼の言う通りだそうです。

 私たちはガンガリディア号というフェリーに乗って、海を渡りました。船の上で彼は、

「マガタマヲトコの呪いは強靭だ。それこそ、その辺の住職や神主ではどうにもならん。だが我輩なら、何とかできる可能性がある」

「どうして、あんたなら?」

 そこが気になりました。

「我輩には聞こえる。死者の声が。我輩には見える。苦しめる魂が。所謂霊能力者という奴だ」

 今までの私なら確実に笑い飛ばしていたでしょう。しかしここまでくると、そうでないことの方が信じられませんでした。

「実際に可能性はある。現に貴様、我輩の顔は普通なのであろう? それが既に呪いに抗えている証拠」

 その言葉を聞くと、安心できました。


 海を渡って港に着くと、また車で移動しました。今度は山中にポツンとある、陶芸工場に着きました。

「橋下工場? お祓いするのに、何でこんな所に?」

「我輩ぐらいの実力なら、場所なんて関係せん。寺だの神社だの言う輩はまだまだだ」

「とは言ってもあんたは、俺とそんなに変わんねえだろう!」

「確かに。我輩は貴様と、年は変わらない。だが年齢もまた、関係せん」


 工場に入りました。白髪のおじいさんが一人、ろくろを回していました。

「久しぶりだな、えん。用意はできてるぞ」

 そう言って和室の戸を開きました。

 中に同い年くらいの少女がいました。

「神代夢路です。よろしくお願いします」

 自己紹介されても、顔は…。

「夢路には、貴様と一緒にいてもらう。そうでなければ呪いが解けたかどうか、わからんからな」

 この少女は言わば、呪いが解けたかどうかの指標でした。

「そんな事をさせるの? あんたの姉か妹かって人に」

「夢路は戸籍上は姉だが、血縁上は我輩の姉ではない。養子だ。神代家は代々霊能力者を排出してきた家系。だが、どういうわけか次男次女は生まれない。その都合上、今まで数え切れないほど多くの、捨て子を養子に迎えてきた。我輩は本家の人間だが、さっきの橋下も運転手の緒方も、元をたどれば捨て子だ」

「だからって…」

「それが神代家の運命。一番最初の子供が全てを継ぎ、後からきた子供はその言いなりとなる。悪しき風潮が現在でもこんな形で残っておる。これはもはや変えられんのだ」

 ここで初めて、神代という家系について聞きました。彼らの運命は変えられないのでしょう。でも彼は私を救おうとしました。きっと私の運命なら変えられる、だから私のために親身になってくれたのでしょう。

「今日は移動で疲れておろう。もう寝ると良い。明朝より除霊を始める」

 私は和室に泊まりました。

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