そのまま一週間が経ちました。この日、家にある人物がきました。地元のお寺のお偉いさんだったと思います。

「洋大。お前、禍球社に行ったのか?」

 お偉いさんはそう聞きました。私は無言で頷きました。

「俺の顔は、どうなっている?」

 私は、ぐちゃぐちゃに見えると答えました。すると母と父は落胆しました。

「栗花落さん。悪いがもう、手遅れです。むしろ一週間も生き延びていることに驚きです。普通なら3日と持ちませんから」

 手遅れ…?

 意味がわかりませんでした。


 私はすぐに車に乗せられ、隣町にあるもっと大きなお寺に連れて行かれました。そこでお祓いを受けました。

「どうだ。顔は? 元に戻ったか?」

 私は首を横に振りました。

「やはり駄目か…」

「ここの神主さんでも駄目なら、もう誰も…」

 そんな会話を聞きました。そしてまた、車に乗せられました。


 また寺か神社かと思っていると、着いた先は精神病棟でした。

「何でこんな場所に俺が?」

 私はお偉いさんに疑問を投げかけました。

「お前はもう、手遅れなんだ。みんなの顔が、禍球男に見えるんだろう? もはや普通の生活は不可能。ここで最後の時を過ごせ。とは言っても短いだろうが」

 冷たく私のことを切り捨てました。

「はあ? 何でだよ!」

 私はお偉いさんに殴りかかろうとしましたが、病棟のスタッフに抑えられました。

「非行に走った自分が悪い。社に行った自分を恨め」

 とだけ言って、お偉いさんは帰ってしまいました。私は精神病棟に残されました。


 精神病棟では、スタッフの陰口を必死に聞きました。そしてあることがわかりました。

 やはり私の彼女が私と別れたかったらしいです。それでマガタマヲトコの話を私にし、その後後悔の念から、お偉いさんに頭を下げて救出してと頼んだとのこと。でも結果は、不可能でした。


 私は後悔しました。傲慢でなければ、不良でなければ、こんなことにはならなかったはず…。しかし今さら嘆いても、もう遅い…。後はここで死を待つだけ…。

「貴様それでも名を馳せたワルか?」

 精神病棟に移されて一週間後。私と同い年くらいの少年が何の約束もなしにやってきました。

 突然の来客にスタッフは驚いていましたが、私はそれ以上に驚いていました。彼の顔は、マガタマヲトコの物ではなく、普通だったからです。

「その顔…。何で?」

「理由は後で教えるとして…。栗花落、ここから出るぞ。ここでは我輩も目立った行為はできん」

 出るって言っても、私は見張られていました。部屋の窓には鉄格子がありましたし、自由時間も与えられていません。

「そんなの無理だ」

「やってみせようぞ」

 そう断言した彼は私をそのまま連れ出しました。不思議なことに、病棟のスタッフとは誰ともすれ違いませんでした。

「貴様。不思議に思わぬか? どうして自分が死なないのか?」

「……」

 私にはわかりませんでした。

「着いたら教えてやろう。全て、な」

 少年は霊柩車を病棟近くの道路に停めていました。それに乗り込み、移動しました。

緒方おがた、まずは栗花落の家だ。取ってこなければいけないものが2つ」

「かしこまりました」

 緒方という運転手が車を走らせました。


 私の家、だったところに着くと、

「貴様は降りるな。抜け出したことがバレる。書類上貴様はまだあの精神病棟におるのだからな」

 少年だけが降りました。そして数分後、戻ってきました。

 霊柩車の中で取って来たものを見せてくれました。

「まずは写真。貴様、コレに遭遇したのであろう?」

「はい…」

 私は頷きました。

「これは、貴様の方が詳しいのであろう? 間違いなくマガタマヲトコだ。その死の瞬間を、マガタマヲトコはわざと見せたのだ。あそこは日本であって日本でない。マガタマヲトコの一部なのだ」

 私は、彼女だった人から聞いた伝承を思い出しました。

「次に。貴様が死なない理由を教えてやろう。これだ」

 彼は、布でできた袋をポケットから取り出しました。そして袋から、中身を取り出しました。

 翡翠でできた勾玉でした。

「これを貴様が持っていては、マガタマヲトコも貴様を殺せんわけだ」

「どういう、意味?」

「あのまま貴様を殺してしまっては、勾玉を社に返せないであろう? あるべき場所にないのであれば、力は落ちる。それに貴様が死んでは、勾玉のことを知っておる者がいなくなってしまう。増々社に戻れんな」

 私は、マガタマヲトコに生かされていたのです。

「じ、じゃあ勾玉を社に戻せば…」

 少し希望が見えましたが、

「直後に死ぬであろうな」

 違いました。

 彼は続けます。

「正直のところ、我輩にも呪いを解けるかどうか疑問ではある。だができる限りのことはやってみせようぞ」

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