その五 禍球男
壱
「お、メールだ」
サイトに一通来ていた。送り主は神代という男。件名を読む。
「呪われた立場――
そう書かれていた。そしてメールの本文には、こうあった。
ネットで読める怪談話を探していたら、募集中とのことでメール出しました。誰かが呪われるのを第三者の立場で見ている話より、呪われた人の話を聞いてみませんか? 興味があれば、次の住所に来てください。神代エンジ。
呪われた人の話。とても興味がある。確かに
氷威はすぐに出発した。祈裡もついてくる。
バスを降りて一時間歩いた。道路がある、というよりは森を無理矢理切り開いたところをアスファルトで舗装したと言った方がいい。そんな田舎に、建物が一軒だけあった。
「
ここは陶芸の工場らしい。取材がてらに体験でもさせてもらおうか。そんなことを祈裡と話していると、誰かが建物から出てきた。
「あなたたちは誰ですか?」
「あ、どうも。メールをいただいた天ヶ崎です。神代さんですか?」
男は首を横に振る。
「いいえ。私は栗花落。そしてメールって?」
「えっ。俺のサイトにくれたじゃないですか?」
ノートパソコンの画面を見せる。栗花落と名乗った男はメールを読んでいる。その間に氷威は、少し不安になった。だってそうだろ? コイツ、俺たちを呼び出した神代じゃないんだもの。
読み終わった栗花落は、氷威に目を合わせて、
「事情はわかりました。神代さんがいいと言うなら話を聞かせてあげましょう。まず工場の和室に案内します。荷物、お持ちしますね」
と言って案内してくれた。案外、良い奴らしい。
「この陶芸工場はあなたのですか。橋下って書いてありましたが」
ちょっとした疑問をぶつけてみると、
「私の師匠の名です。師匠は既に旅立ちましたが、このまま変える気はありません。私はずっと、師匠の弟子ですよ。それに…」
ご丁寧で長々な返事が返ってきた。
和室に着いた。畳はとても綺麗で、ちゃぶ台も埃一つ被っていない。部屋の隅々にまで、掃除が行き渡っている。
この栗花落という男は、とても真面目なのだなあ、そう感じた。
「お茶です」
女性が1人、お盆に湯呑と急須を乗せて入って来た。そして氷威、祈裡、栗花落とこの女性の分のお茶を入れた。
氷威と祈裡が座ると、二人も座った。
「まず、初めまして。私は
こっちの女性が神代…。でもメールの差出人は、エンジって名前だったな。
「俺は天ヶ崎氷威。で、こっちのは和島祈裡。フリーのライターで、本にするために怪談話を取材で集めています。こちらで聞いた話は全部、場所がわからないようにするので、その点は安心を」
挨拶はこれぐらいにして、お茶を一口飲むと、早速本題に入る。
「まず、メールの送り主の神代エンジについて知りませんか?」
「それはこれから話の中で出てきますよ」
そう言うなら、無駄に詮索はしない。
「最初に、私の出身は本州です。だからと言って詳しい場所は明かせません。そこではある、伝説というか、神話というか、そんな話が語り継がれていたのです。周りの人は、マガタマヲトコと呼んでいました」
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