スズムシの鳴き声を聞いたら、病気が悪化して死亡する…。

 頭を悩ませたご先祖様は、有力な霊能力者を雇ってお祓いをしてもらうことにした。最初の霊能力者は佐藤さとうといい、すぐに除霊を始めた。

「嘴細の大変な怨念が私には見えます。しかし、難しいことではありません。すぐに鎮めてみせましょう」

 そんな大口叩いていた佐藤だったが、除霊は中断される。

「耳が痛い! スズムシのリンリンという鳴き声が頭を離れない! うるさくて集中できない!」

 嘴細の霊が邪魔をした。佐藤はそれに抗えず、除霊は中止になった。後日、佐藤は死亡。

 次の霊能力者の名前は記録に残っていない。その霊能力者は、

「この霊は私の腕で払えるものではない。私の力をはるかに超えている。きっと鎮められる人は存在しないだろう」

 とだけ言い残して去っていった。

 このままでは病院存続の危機になり得る。でもしてやれることがない…。そんな絶望の中、ご先祖様はついに聞いてしまう。

「リンリンリンリン、リンリンリン」

 季節は冬。時刻は朝。スズムシが鳴くはずのない季節に時間帯。

 これを聞いたご先祖様の頭の中は真っ白になった。ついに自分の番が来た。この日は誰とも話さずすぐに帰宅し、家の書斎で怯えていた。相当恐怖していたらしく、この時の心境を詳細に記録してはいるのだけれど、文字が崩れ過ぎて読めたものではない。日記は3ページにわたってミミズのような文字が記載されている。

 しかし、ご先祖様の身には何も起きなかった。日記の日付から考えると、一週間は家に籠っていたはず。でも、熱も出なければ咳もしない。次の日には病院に戻り、自分の体を診察したが、悪いところはどこにもなかった。

 スズムシの鳴き声が聞こえたのに、ご先祖様は助かった。

「呪いは終結したようである」

 ご先祖様はそう書いている。


 だが違った。ご先祖様が病院に戻って2か月後、またスズムシの鳴き声が聞こえると訴える患者が現れたのだ。

 二十歳の若者だった。酒の飲み過ぎで急性アルコール中毒になった彼は、その前日に病院に運ばれ、回復したらすぐ退院するはずだった。

 いざ退院という時に彼は吐血した。そしてそのまま再入院し、わずか3日でこの世を去った。

 その後もスズムシの鳴き声を聞いたという患者、看護婦、医者は後を絶たなかった。そして一人残らず、原因不明の症状で死亡する。

「私も聞いたのに、死なない…。この差は何なんだ?」

 ご先祖様はまた、頭を悩ませた。

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