怪体心書

その四 鈴虫

壱

　さすが東北一の大都会だ。他の県も回ってみたが、全然違う。人の数もビルの高さも比べ物にならない。これで100万人って、東京や大阪はどれだけドデカいんだよ！　俺は本当に井の中の蛙だ。氷威はそう感じた。

「あんたが天ヶ崎氷威ね！」

　駅の中を歩いていると、女の子に捕まった。名乗った覚えどころか、ウェブサイトに顔写真すら出した記憶はない。なのに何で、俺だとわかったんだこの子？

「…そうだけど、君は誰？」

「私は大神若菜（おおがみわかな）よ」

　大神…。聞いたことある苗字。

「大神岬の知り合い…？」

「知り合いどころか親戚。あの子の家族は亡くなったけど、大神の血筋が途絶えたわけじゃないわ。むしろ私が本家なの」

　岬の親戚なら、話は早い。

「ということは、君も何か怪談話を知ってるわけだね？」

「もちろん。でも場所を変えるわよ」

　若奈に連れられて、何故か救急車に乗せられた。

　着いた先は、これまた大きな病院。随分と立派な石碑に、大神病院と彫られている。

「ここは？」

「私の一族が経営してる病院。県内どころか東北最大の病院。そしてここの院長先生は私の父親」

　自慢げに若奈は話す。氷威はその大きさに気を取られていて、全く聞いてなかった。

「今日はこの病院に伝わる話を教えてあげるわ」

　病院に入った。中は綺麗で、ここも人であふれてる。若奈とエレベーターに乗り、七階にある院内食堂に案内された。

　コップに水を入れてくれると、席に座った。

「さて。じゃあ話を始めるわよ。準備はいい？」

　氷威はノートパソコンを急いで立ち上げた。

「オーケー！　いつでもどうぞ」

　ゴーサインを出すと、若奈は語り始めた。