でもアタシは行けなかった。父と母が家でずっとアタシを見張っており、家から脱出するチャンスはなかった。

 携帯も取り上げられてしまい、アタシが行けなくなったことすら、連絡できなかった。

 テーブルの椅子に座らせられて数時間。もう我慢の厳戒だった。

「いい加減にして! あそこに何があるの? 何で行っただけでこんな大騒ぎするの?」

 最初は両親は無言だったが、何度も怒鳴るとついに折れた。父が周辺の地図を持ち出し、テーブルの上に広げた。

「玲歌。あの灯台…呪灯はここにある。それはわかるな」

 父が指し示す場所には、地図記号はない。でも実際に行ったから、存在はしている。

「何で山の中に灯台があるの?」

「それは昔ね…」

 母の方が詳しいらしく、説明してくれた。

 でも、アタシは全然記憶にない。だってその時までには何も起きてなかったから、絶対に嘘だと思ってた。友達と一緒にいられないことで腹が立ってた。それが原因で友達に嫌われたらどうしてくれるの? だから頭に内容が全く入ってこなかった。


 事件が起きたのは次の朝だった。学校から緊急メールが二通来た。

 一通目は臨時休校。詳しい理由は書かれてなかった。

 二通目は、アタシにだけ宛てられたメールだった。話を伺いたいから、昼頃職員室に来いって書かれてた。アタシは両親と一緒に、学校に向かった。


 職員室で先生に言われた。

「滝川さん、何か事情を知ってるんだよね? 洗いざらい教えてくれない?」

 地元出身の先生が対応していた。アタシから教えられることなんて、ないと思うんだけど…。でも言った。

「Aたちは、アタシが案内した呪灯に行きました」

「それは一昨日の話でしょ?」

「一昨日行っても何もなかったから、昨日の夜にもう一度行こうって…」

「何だって!」

 先生はそう叫ぶと誰かに電話をした。

「もしもし! 場所がわかりました。呪灯です、呪灯! 一昨日だけじゃなく、昨日も行ったんです! 早く駆けつけて下さい!」

 電話が切れるとアタシの方を向いて、先生は激怒した。

「何で呪灯に向かわせたんだ!」

「…アタシに言われても…。アタシは一昨日、呪灯に案内しただけで、昨日はAたちが勝手に…」

 言い訳に聞こえただろう。でも本当だ。もし何かしら知っていれば、一昨日だって行かせなかった。いや、話すことすらしなかった。

 その後、ずっと叱られた。アタシに弁明の余地は与えられなかった。


 数時間後、職員室に電話がかかってきた。

「見つかった? ああ、やはりそうでしたか…。了解しました」

 見つかったらしいのに、先生の表情はすごく残念そうだった。

「滝川さん。あのプレハブ小屋でA君たちが遺体で見つかった。やはり、手遅れだったようだ」

「はあ?」

 思わず声が出た。

「遺体で見つかったって、死んだってことですか?」

「…そうだ。呪灯に行ってしまっては、生きては帰って来られない…」

 その言葉にアタシは反論した。

「でもアタシは、帰って来れましたよ。一昨日も子供の頃も。そんな迷信信じるなんて…」

「滝川さんが行ったのは昼間でしょう? なら全然大丈夫だ。もちろん行かないことにこしたことはないんだが」

 アタシは昼間にしか行ったことがないから大丈夫? 意味わかんない! アタシは職員室から出ようとした。でも先生が止めた。

「君にはもう行かせない。そして今後一切、呪灯留島のことは口外しないこと。これが守れないなら、君にはこの高校を去ってもらう」

 先生は脅してきた。でもこの一件にはアタシにも責任があった。だからアタシは従うしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る