あの灯台は呪われている。そしてあの島に行けば二度と帰って来られない。

 小さいころから聞かされた話。でも当時は誰も信じてなかった。何故ならそこには島がない。いや、アタシの地元は内陸で、県は海に面していない。だから島だの灯台だのと言われても、何の話かわからなかった。それらの言葉は適切じゃないから。

「見てごらん玲歌。あれが呪灯。呪われた灯台だよ」

 祖母が島の手前まで連れて行ってくれた時に、言っていた。

 高さは50メートルぐらいだろうか。それは白かった。でもてっぺんには、照明装置のようなものがついてなかった。そもそも陸地に灯台なんて、どうしてできたんだろう?

「あそこの近くに行ってもいい?」

 アタシはそう聞いた記憶がある。そして、

「何を言うの玲歌! 行ってはいけない! 二度とここにも来ちゃ駄目だよ!」

 普段はやさしい祖母が、突然怒った。

「じゃあ、ここらも歩いちゃダメ?」

 アタシはそう言って、一歩踏み出そうとした。すると祖母が、

「留島にも入るな!」

 腕を思いっきり引っ張って、アタシを戻した。

 祖母の表情がとても怖かったため、この一件以降、アタシはそこに二度と行かないと決めた。


 5年前…アタシが高校1年生の時、その祖母が死んだ。その時の葬式で、誰かが言った。

「留島に行くから…」

「でも、だとすると呪灯がまた光ったってことか?」

 大人たちはざわついた。でもアタシはその話についていけなかった。

 次の日高校で、その話を同級生にした。すると食いついて来た。

「それ、行ってみようぜ」

 仮にこの男子をAとする。他にもBとCは男子、DとEは女子。いつも一緒に過ごすメンバーだった。

「やめとこうよ」

 Dが止めようとしたが、リーダー格のAが言ったら最後、従うしかない。

「何ビビってんだよ。どうせなんもねえよ!」

 Bも便乗した。

「ええ、どうしよう…」

 Eが不安そうな顔をしていたので、アタシが、

「大丈夫だよ」

 と慰めた。

 アタシには自信があった。というのも祖母が死んだのは夜だった。遺体は次の日に呪灯の下で発見されたらしいけど、捜索に出た人は無事に帰って来てるんだし、昼間なら問題ないと思ったからだ。

「今日は授業、午前中だけじゃん? 昼食べたら行こうよ」

 アタシが提案すると、Aは納得した。


 学校から直接、呪灯に向かった。道は小さいころよりも荒れていた。誰も寄り付かない場所。一目でわかる。それでもAは進む。

 そこまで高くない山道を進んで、山の反対側に出た。さらに向こうに、そこを囲うかのように山がある。その開けた所に、呪灯はあった。

「あれか?」

 Cがアタシに聞いた。アタシはそうだと言った。

「電信柱の出来損ないみたいじゃない? あれで本当に合ってるの?」

 Dが辺りを見回した。しかし、他にそれらしいものは何もなかった。

「嘘だ。大体、何で山中に灯台なんてあるんだよ! 普通に考えればおかしいじゃねえか!」

 Aが叫んだ。だがあれは確かに、アタシが祖母と見た呪灯だ。

「間違ってないよ。だってお祖母ちゃん、あそこで発見されたから…」

「じゃあ近くまで行ってみようぜ」

 Bがそう提案すると、みんな歩き出した。本当は行きたくなかったけれど、アタシもついて行った。


 結構歩いて呪灯に着いた。側までくると、結構大きく見える。よく見るとヒビが走り、色あせている。

「何だコレ?」

 他の5人は、呪灯のすぐ側にある建物を見ていた。建物と言うより、バス停によくある建物みたいな感じ。

「ここに昔、バスでも走ってたのかね?」

 Cが首を傾げながら言った。他の4人はそうだったんだろうと頷いた。だって仮にこれがバス停で、呪灯が電信柱ならありえなくない話だからだ。

 でもアタシは、違うと感じた。この周辺には道がなかったし、めぼしいものもなかった。近くには誰も住んでいないし、畑も川もなかった。

 つまりここにバス停を作る意味など、どこにもないのだ。

 でもそれは言わなかった。言えば揉めそうだったから。

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