肆
「どう? 怪談ではあるけれど、良い話でもあるでしょ?」
ウェブサイトを立ち上げながら祈裡は言う。
だが氷威は、感動しなかった。
「何か、引っかかるな」
そう言ってフロントに電話した。
「明日もここに泊まるぞ。延泊だ」
それを聞いた祈裡は驚いた。
「どうして?」
「確かめたいことがある」
祈裡に何を聞かれても、氷威は答えなかった。
次の日の夜。まずはコンビニだ。
「いるか?」
祈裡が店内を探す。
「いないよ。今日は非番なんじゃない?」
ならいいぞ。久姫にいてもらっては少し困る。
「じゃあ、バス停で待つか」
最終バスが来るまで待った。
そのバスがやって来た。氷威は祈裡と共に乗り込んだ。堂々とシルバーシートに座る。
「そこに座るの?」
祈裡は遠慮して、後ろの席に座った。
「お客さん、そこは…」
運転手が氷威に話しかけたが、
「気にしないでくれ。どうせ乗客は、他にはいないんだから」
席を譲る相手もいない。ここを離れる理由はないはずだよな?
バスは出発した。そして祈裡が昨日話した通りの場所で止まり、彼が乗り込んでくる。一目でこの世の存在じゃないとわかる。生気が全く感じられないし、近づいてくるだけで寒気がしてくる。
氷威は一瞬だけ、彼の顔を見た。
「…」
彼は無言だった。氷威は次に運転手の方を見た。大して熱くもないはずなのに、首筋に汗が流れている。
そしてバス停じゃないところで止まると、彼は運転手に無言で頭を下げると降りた。この時氷威は、運転手を見ていた。運転手は彼の方を見ていなかった。
そのままバスが走り出した。
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