「どう? 怪談ではあるけれど、良い話でもあるでしょ?」

 ウェブサイトを立ち上げながら祈裡は言う。

 だが氷威は、感動しなかった。

「何か、引っかかるな」

 そう言ってフロントに電話した。

「明日もここに泊まるぞ。延泊だ」

 それを聞いた祈裡は驚いた。

「どうして?」

「確かめたいことがある」

 祈裡に何を聞かれても、氷威は答えなかった。


 次の日の夜。まずはコンビニだ。

「いるか?」

 祈裡が店内を探す。

「いないよ。今日は非番なんじゃない?」

 ならいいぞ。久姫にいてもらっては少し困る。

「じゃあ、バス停で待つか」

 最終バスが来るまで待った。


 そのバスがやって来た。氷威は祈裡と共に乗り込んだ。堂々とシルバーシートに座る。

「そこに座るの?」

 祈裡は遠慮して、後ろの席に座った。

「お客さん、そこは…」

 運転手が氷威に話しかけたが、

「気にしないでくれ。どうせ乗客は、他にはいないんだから」

 席を譲る相手もいない。ここを離れる理由はないはずだよな?


 バスは出発した。そして祈裡が昨日話した通りの場所で止まり、彼が乗り込んでくる。一目でこの世の存在じゃないとわかる。生気が全く感じられないし、近づいてくるだけで寒気がしてくる。

 氷威は一瞬だけ、彼の顔を見た。

「…」

 彼は無言だった。氷威は次に運転手の方を見た。大して熱くもないはずなのに、首筋に汗が流れている。

 そしてバス停じゃないところで止まると、彼は運転手に無言で頭を下げると降りた。この時氷威は、運転手を見ていた。運転手は彼の方を見ていなかった。

 そのままバスが走り出した。

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