ニコイチ休憩中

「わ~、すご~い。これ、全部久留米クンが作ったの~?」

「うん、そうだね。これを鉄研の出し物として学祭で展示するんだ」

「すごいすご~い」

「あのね、こういう街の中にいる人は友達とかをモデルにしてたりして、ほらここ、洋ちゃんもいるよ」

「わ、イベントのMCだ~! 嬉しいな~」


 今日も今日とて放送部は活動してるけど、30分ほど1人にしてくれとPから追い出されれば、時間潰しのためにぷらぷらと散歩しますよね。で、たどり着いたのが鉄道研究会、略して鉄研さんの部室。

 畳1枚分くらいはあるんじゃないかっていう大きなジオラマがあって、それを作ったのがこの久留米クン。久留米クンは俺と同じゼミの友達で、鉄研の部長さんでもある。乗り鉄とか撮り鉄とかじゃなくて、鉄道のある街の風景が好きなんだって。


「久留米クン、これどれだけでも見てられるね」

「ありがとう、そう言ってもらえると頑張った甲斐があるよ」

「ジオラマの中にある小ネタも楽しいし」


 ジオラマの線路の上を実際に電車が走っていて、照明を操作すれば日の出から深夜までの街を再現できるそうだ。作るのに相当時間かかってるだろうな。こんな細かい作業、俺には絶対出来ないから本当にすごいなって思う。


「こんにちはー。あ、ゆういちクン。ちょうどよかった」

「伏見さんこんにちは。どうしたの?」


 ちなみに久留米クンは雄一郎っていう名前だよネ。久留米クンをゆういちクンと呼んだ赤いメガネの女の子は、映研さんだと紹介を受けた。部活同士のやりとりがちょっとあったみたい。そんなことも、放送部にずっとこもってちゃわかんないネ。


「撮影に使わせてもらったジオラマ、返しに来ました。その節はどうもありがとうございました」

「お役に立てたならよかったよ。作品、完成しそう?」

「今は編集に入ってて、もうすぐってトコ」

「そう。頑張ってね」

「ゆういちクンは鉄研でジオラマ出すんでしょ?」

「そうだね、今電車走らせてるこの街を出そうと思ってるんだ」

「わ、完成したんだ! すごーい!」

「伏見さんもいるよ。ほら、これ」


 そう言って久留米クンが指さしたジオラマの人形は、確かに目の前にいるこの子に似ている。茶髪のボブヘアーで赤いメガネという特徴をしっかり押さえてるからだろうけど、本人にしか見えないネ。


「わ、あたしだ」

「それはそうと、映研の作品の他にゼミの方でもカツカツだったんでしょ? そっちは大丈夫そう?」

「学祭が終わるまではペア研究という名のソロ研究だよね。まあ、今はアタシも休憩中だし、学祭終わってから2人で本腰入れるような感じ」

「洋ちゃん、学部が違うとやることも変わって面白いんだよ。伏見さん人間学部なんだけど、自分の研究の他に先生が指定したテーマをペアで研究するっていうのもあるんだって」

「うん、面白いんジャない? 視野が広がりそうだネ」

「春学期も相方さんが実質いないようなものだったんでしょ?」

「うん。7月に入った頃からステージの台本書くんだーって言って研究をブッチし始めましたよね!」


 ――と、ここまで聞いて、そういうことをしそうな人間学部のプロデューサーを思い出す。確かに某Aプロデューサーは勉学よりステージ優先だろうし、ペア研究とやらに復帰出来るのは学祭後というのも納得でしょでしょ~。


「って言うか~、もしかしてその相方さんってウチの朝霞クンのこと~?」

「あっ、もしかして放送部の方ですか…!?」

「どうも~、朝霞班のステージスター・山口洋平で~す。以後お見知り置きを~」

「あ、えっと、映研で脚本書いてる伏見あずさです」

「ウチのPがすみませ~ん。生命活動よりステージ優先なんで~」

「あ、でも朝霞クンがそういう人なのは納得してますし、春は一応菓子折りもらってるんで……」

「朝霞クンが菓子折りって。ウケる~」

「ああ、洋ちゃんの友達のカーディガンの子だね」

「そうそう~」

「洋ちゃん作ったときにその子も作ったんだよね。ニコイチかなと思って。ほらここ」


 久留米クンが指さした人形は、まさに朝霞クンそのもの。俺が立っているステージの脇で腕を組んで見ているプロデューサー。特徴捉えすぎててせっかく鉄研さんに遊びに来てるのに現実に引き戻されるでしょでしょ。ところで今何時~?


「あっ! もうこんな時間!?」

「洋ちゃんどうしたの?」

「30分だけの散歩のつもりがうっかり長居しちゃったでしょでしょ~! 早く帰らないと朝霞クンに怒られちゃうよ~! じゃあね久留米クン! お邪魔しました~!」

「バイバーイ」


 慌ててブースに帰るでしょ? そしたらさ、さっきジオラマで見た腕組みPが再現されてたんだから。あのジオラマ、実寸大朝霞クンの何分の1スケールかな~。……なんて、ネ…?


「山口。とうに30分過ぎたけど、どこをほっつき歩いてた」

「すみませ~ん、鉄研さんの部室にお邪魔してました~」

「台本は修正出来たんだ。練習するぞ」

「は~い」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る