脳内の畑から花をひと摘み

「じゃーん! 見て見て、サドニナ可愛いですよねー!」

「どうしたんですかサドニナ、お花なんて頭に付けて。アホっぽさに拍車がかかってますよ」

「一言余計ですよこーた先輩! これは、夏合宿の番組本番のときにみんなお揃いで付ける衣装のお花でーす!」

「えー!」


 なんてこったい。一言で言うならそんな感じですね。突然サドニナが何を思ったか、花飾りなんて持って来るじゃないですか。しかも本人はそれを頭に付けていて。それが? 当日の番組の衣装ですって? そんなの聞いた事ありませんよ。

 私は無言で班長であるツカサさんに目で訴えます。サドニナを止めてくださいましと。ですが反応はありません。と言うか完全に固まってますね。まあそうでしょうねえ。星大さんは良くも悪くも普通で平均的。ぶっ飛んだ言動への対処法がデータベースになくても仕方ありません。


「ちょっとツカサさん、何をフリーズしてるんですか」

「えっあっ、ゴメン、理解が追いつかなかった」

「ええ、私も理解は追いついていませんよ。サドニナを止めてください。私は頭にお花なんて付ける柄じゃないんですから」

「俺だって頭に花なんて付ける柄じゃないし……って言うかこーたはキャラ的にまだ許される気がするけど俺は完全に許されないヤツだし。えっとサドニナ、それは本気で言ってるのか?」

「え、冗談だと思ったんですか?」


 あっこれダメなヤツですね。頭に黄色いお花を付けたサドニナは既にこれを全員が付けるものだと思っているようですし、何とかして回避せんと説得を試みたいのですが、果たして諦めさせることが出来ますでしょうか。


「えっと、サドニナ? 合宿の番組はラジオって体だから、衣装を揃えてもあまり意味はないと言うか――」

「テーマパークでの公開生放送っていう設定ですよね? なら見た目に気を遣うのも番組の第一歩じゃないですか!」

「あ、覚えてたんだ」

「サドニナはテーマパークでもアイドル! プリンセスですよ! 目立ちたいんですー!」

「こーた、俺はもうダメだ」

「ちょっとツカサさん! 大した説得もしてないのに何を諦めてるんですか! 出だしで躓いただけでしょう!」

「出だしで躓くとかもう詰んでるじゃないか」

「お花を付ける前から悪者扱いするのはよくないと思うんですよね! なので先輩たちも付けてみたらいいんですよ! はいツカサ先輩の分。こっちがこーた先輩の分です!」


 ツカサさんには水色のお花が、そして私にはサドニナとお揃いの黄色いお花が手渡されました。これをどうすれば……とジッと見つめていると、早く付けろという圧がじりじりと迫って来るではありませんか。

 そもそも私は男であって、頭にアクセサリーを付けるという経験はそうそうありません。たまにMMPでは前髪をてっぺんで結んで「大五郎ー、ちゃーん」などと子連れ狼ごっこをすることもありますが、あれは悪ノリとかネタの一種じゃないですか。公衆の面前ではさすがにねえ。


「こーた先輩が付けられないならサドニナが付けてあげますよ!」

「ちょっと、やめなさいサドニナ!」

「それーっ!」

「あ~れ~」


 奪われたお花が問答無用で頭にくっつけられ、私自身どうなっているのかわからないまま皆の反応を見るしかないじゃないですか。しかも無言! リアクションが薄い! えっ、これ私はどうしろと!?

 これなら「キモっ」とか「ウザっ」とバッサリやってくれる方がまだいいです! あっ、そういうことを躊躇なく言える人たちを知ってる! うわーい、MMPって鬼畜集団に見えて本当はハートフルでラブ&ピースな集団なんだねー!


「ちょっと、何か言ってくださいよ」

「こーた先輩思ったより似合うなーと思って」

「えっ、似合ってるんです?」

「似合ってますよ、可愛いですよサドニナの次に」

「鏡がないので何とも言えませんが、本気を出せばサドニナより可愛いと思いますよ、何てったって私はウザい界のアイドルですから」

「いくらこーた先輩が可愛くてもサドニナより可愛いことは絶対あり得ませんからね! ちょっとサドニナのカメラに向かってポーズ取ってください!」

「いっきますよ~」

「はいチーズ!」


 で、画像を見るじゃないですか。思ったよりイケてるんですよこれが。さすが私、腐ってもウザドルですね。これならまあ、番組の間だけ付き合ってあげるのも悪くはないと思いますよ。まあ、水色の花を付けられたツカサさんは渋い顔をしていますが。


「しかしまあ、ツカサさんは絶望的に似合ってないんですよね」

「男で頭に花が似合うのもどうかと思う。サドニナ、俺が頭に花は無理があるし、レイとかにならない? あるよね、花の首飾りの。ハワイとかでよくある」

「しょうがないなー、ツカサ先輩のペアはレイでいいですよー」

「――ってお花で揃えるのは付き合うんですね?」

「まあ一応、テーマパークの体だし、夢の国の耳的な感覚でイケるかなって」

「なるほど。ではひとまずこれを外しましょうか。ラミパスラミパスルルルルル~」


 な、何となく班がまとまりを見せてきたと言い聞かせますよ~。

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