一本道を真っ直ぐに

「おう、高崎そんじゃーな! 帰ってきたらレポート添削よろしく!」

「うー……」


 乗り物酔いでグロッキーになっている高崎が車から降りると、いよいよここから本格的な帰省が始まる。

 丸の池ステージも向舞祭も終わり、ようやく俺も実家に帰ることが出来るようになった。どうやら向舞祭を見に来ていたらしいシンこと飯野晋哉と高校振りに再会して、話が盛り上がった結果シンの車で一緒に買えることになった。

 何か成り行きで俺と山口、それからシンと高崎の4人でうちの近くの髭でちょっと集まっていて、軽く食べたりここまでのことを話したりして現在に至る。シンが向舞祭に来ていたのはゼミのレポートのためらしい。高崎はそのお付きだとか。


「さてと。さあロイド君帰ろうか!」

「だな」

「よーし行くぜー!」


 高崎のアパートから俺が降りる山羽駅までは距離にして150キロくらい、時間にすれば高速で2時間くらいかかる。そこまでをシンの運転でドライブをしつつ、旧友との再会を懐かしみながら現状報告をする、ような感じらしい。


「は!? 高速使わねーのか!?」

「使ってもいいけどさ、どうせなら下道でのんびり行きたくね? 道の駅探訪とかもしたいし」

「いや……俺は別にいいけどお前運転しっ放しになるだろ、しんどくね?」

「人が決めた帰省は帰省じゃない」

「いやお前何名言チックなヤツパロってんだよ」

「いーのいーの、下道でも4時間だろ? 休憩込々で6時間くらいとしても余裕余裕」


 ――というワケで、下道で約4時間のドライブが始まった。

 俺とシンは高校の同級生で、シンは文化祭実行委員、俺は生徒会役員として各種行事運営に携わっていく中で仲良くなった。シンは今も緑ヶ丘で大学祭実行委員で漢字だらけの偉い役職に就いたと聞いて、変わらねーなと思う。

 俺は生徒会の他に文芸部にも属していて、部誌の原稿を書いていたり演劇部の舞台の脚本・演出を担当し、学祭の有志による演芸コーナー向けに台本を書いたり忙しくしていた。……というようなことはシンが懐かしーなーと話す中で思い出した。

 インターフェイスではロイと名乗っているけれど、それも元を辿れば高校で付けられたロイドというあだ名が由来だ。顔色一つ変えずに淡々と仕事をこなし成果を積み重ねる様がアンドロイドのようだということでロイドと呼ばれるようになったらしい。


「俺さー、湖西の道の駅で1回休む計算でいるんだよ」

「距離的にもちょうどみたいなことか?」

「それもあるけど、かき氷食って飯食って足湯したい」

「至れり尽くせりだな」

「ロイド君向舞祭にも出てたけど今何やってんの? 表舞台に立ってるイメージはなかったけど」

「あれは大人の事情だけど、今はなー」


 昔話よりも今の話の方が圧倒的に楽しいと思うのは、今のことはより事実みがあるからだと思う。昔のことは記憶を都合よく操作して、脳が脚色したそれをあたかも現実であったかのように信じ込ませてしまう。あの時楽しかったな、良かったなと思うことの全てが悪とはしないけど、それは今の成長の妨げになる。

 今のこと……シンなら大学祭の準備で走り回っていることだし、俺なら次のステージより先に来るのはインターフェイスの作品出展か。それにどんな話を書こうか考えているとかそんなようなことに想いを馳せるのは夢があってとても楽しい。思い描けることは実現できると信じているから、そこに向かって突き進むだけだ。立ちはだかる壁はぶっ壊すまで。


「よーし着いたー」

「あざーす」


 2時間くらい走って目的の道の駅に着いた。目の前には海が広がっていて、山羽に突入したんだなと改めて思う。


「シン、飯にする? 足湯にする?」

「それともロイド君?」

「ふざけんな」

「あーゴメンって!」

「ったく、運転してもらってるし飯奢るつもりでいたのに」

「マジで! ゴチっす! いやー、高崎とかいう鬼畜に奢らされまくってて金欠なんだわー」

「高速を使わない理由はそれか」

「それも少し」

「でもお前って何かこう、言動が調子良すぎて助けたくなるとかお礼したくなる気を削ぐよな」

「思い当たる節があり過ぎる」

「とりあえず飯食うか。俺しらす丼気になる」

「だなー! 飯だ飯ー」


 帰省のドライブはようやく折り返し地点。食事を済ませたらかき氷を食べたり足湯をしたりしてまったりする予定だ。少しの間はいろいろなことから解放されて、のんびりするのもいいかなって。現実の体験はいつか何かのネタになるだろうし。


「あー、成績がマジ不安すぎる」

「お前それ高校の時から安定だよなー。……あっ、ヤバい、思い出した」

「どうしたロイド君。ロイド君も卒業ヤバいとか」

「そこまでじゃない。いや、ゼミのペア研究、ステージばっかやってえ結局最後まで何もやってないなーと思って。いっけねー、マジでヤバい」

「ロイド君、そんな時は菓子折りだ」

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