現実と正義の間で

「対策委員です」


 盆明けということで、ここらで一度対策委員の会議が開かれた。気が付けば月末の合宿まではあと1週間ちょっと。何気にもう日がない。対策委員はみんな班長として自分の班を持っているのだけど、それだけじゃなくて合宿全体のことにも目を向けなければならない。

 それでも、顔を見れば何となく班の状況がわかってしまうこともある。啓子さんや果林なんかは余裕があると言うか、心のゆとりが見て取れる。一方、凶悪な顔つきになっているのがつばめだ。つばめ班はヤバいとは聞いていたけど、そのヤバさが浮き彫りになっている。

 これには今日の会議に来ていただいている講師のダイさんも、大変そうだねえとつばめを労い始める始末。だけど、それだけつばめ班のヤバさがガチなのだ。それを相談出来る相手もなかなかいないようで、ダイさんを前に自然とつばめの口から現状が語られ始める。


「三井マジあれダメだわ」

「ちょっ、つばめお前事実でもさすがに直球すぎるぞ」

「向島のクセに野坂が否定しない辺りガチじゃん」

「あ、えーと、ノーコメントで」

「それでつばちゃん、ミッツによって班は今どうなってんの」

「二言目には「この程度じゃプロになれない」ですわ。挙げ句、あっ、ペア組んでるの青女の1年の子なんですけど、その子に対して「それでよく僕の相手が出来ると思ったね」とかま~あ! 何をアドバイスするでもなく上から目線の何様俺様ですよ。アイツにお小言を言われてその子毎回泣いててミキサーの前に座ることも出来なくなりつつあって。ゴメンね啓子さんミラを酷い目に遭わせて」

「ちょっと想像以上だったね」

「そんでアタシがアイツにそんな言い方ねーだろっつったら星ヶ丘に何がわかるとか言ってくるからね。いやいや、自分の実力を過信したカエルにこそ何がわかんだっつーの。果林でも野坂でもいいわ、なっちサンか圭斗サンにアレの扱い方の取説もらってきてよ、完全に後手だけど」


 これには対策委員も全員「うわあ……」とドン引きすることしか出来なかった。初心者講習会の時からうっすらとは思っていたけど、三井先輩の正義とは一体、という話になってくる。と言うかインターフェイスに属する大学にはそれぞれの活動があって、それぞれの強みがある。向島だから偉いということは当然ひとつもない。


「ミッツの取説ならある程度あるよ。俺もMMPのOBだからね」

「ちょっと~、ダイさんそれならもっと早く言って~」

「ちょっ、つばめお前大先輩にどんな態度だ」

「あ~、いーのいーの。うんうん、まずは相手にしないことだね。今までの話を聞いてると、つばちゃんはミッツを納得させるとか捻じ伏せた上での平和を構築しようとしてるけど、無理だから。早急に相手をやめることをおすすめするね」

「アタシはそれでいいとして、ミラは」

「そうね~、アイツは自分と恋愛フラグの立ちそうな女の子にしか優しくないからねえ。あっ、扱い方の基本はとにかく乗せて乗せて、おだてておだてて調子に乗らせることかな」

「えっ、ただのクズじゃねーか」


 ただ、ダイさんの仰る三井先輩の傾向にはMMPの後輩として若干の心当たりがある。三井先輩は天性の女好きでいらっしゃって、フラグの立ちそうな女性に対しては見事なまでの見栄っ張りかつ貢ぎ体質なのだ。たとえば、フラグなどないけど菜月先輩に対してがそうだ。

 そして能力で劣っているなど自分のプライドをへし折りそうな相手、特に男に対しては本人のいないところでボロクソに叩き下ろすのが基本。これは圭斗先輩や高崎先輩に対してが代表例だし、とにかく合わない上に勝てない相手……麻里さんに対してもまあ負け惜しみが凄かった。


「でも三井先輩の扱い方としては、おだてて乗せてっていうのは正解な気がする。菜月先輩なんかその手法で財布にしてるし。月に何千円毟ってるかなあ」

「菜月先輩はホンマ節約上手やよね。こないだも摩天楼のあんかけ焼きそば奢ってもらったって」

「あれ美味いよね、俺も今度マー連れて摩天楼行こうかしら」

「えっ、って言うかアレをおだてて乗せるとか死んでも嫌だわ」


 まあ、つばめの性格ならそうですよね。だけど、つばめは揺れているようでもあった。自分の信じることと、守るべき班員との間で。


「あ、全体会議なのにウチの班の話ばっかでゴメン。この件はLとも話し合ってみるし、お返ししまーす」

「つばちゃん、本当の本当にギリになったら俺に駆け込んできてね。俺ならミッツを鎮められる立場も実績もあるからね」

「ガチのギリの時だけお願いします。先輩に頼りすぎてたらそこを突いて嫌味言ってくるんで」


 俺たちからすれば、触れたくない腫れ物を引き取ってくれたつばめを何とかサポートしたいワケで。合宿当日などであれば、ちょっと前にやっていた囮作戦なんかも使えそうだけど…?

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