like a millefeuille

「あ~もうアカンこの世の終わりやよ」

「意味が分からない」


 向島大学でもテスト期間に突入し、1週間にわたる戦いもいつの間にやら後半戦。MMPで言えば真面目組の圭斗先輩とこーたはさほど苦労はないそうだ。あ、俺も当然余裕です。奈々は初めてだから緊張しつつも油断はしていないそうだ。

 一方出席が怪しい組。菜月先輩と律は出席がないなら無いものとしてでっち上げでそれらしく答案を埋める才能に長けているから余裕綽々だ。その辺の能力にやや欠ける三井先輩はひーこら言ってるらしい。で、ヒロだ。


「ホンマ、テストなんか絶対しなアカンの?」

「諦めろ。日頃からの積み重ねだ」


 俺とヒロは学部学科が一緒で、なおかつ理系の1・2年なんてほとんど学部固有で埋まってしまっているからほとんど同じ履修になっている。それをいいことに、無いノートやプリントを集るのは当たり前。

 パソコンの実技系授業では授業の後半で課題が出されてというパターンも多々ある。毎回しっかり片付けていた俺に対し、ヒロは早く終わりたいという理由で課題を溜めっぱなしで今になってわあわあと騒いでいる。

 大体「授業回数重ねてったら課題溜めといてもラクラク出来るよーになっとると思うんやよね」などと言っておきながら、授業回数を重ねるどころかサボったり寝たりしている時点で課題がラクラク出来るようになるはずなどないのだ。


「積み重ねゆーけど、勉強ばっかが学生としての過ごし方とちゃうやん?」

「あくまで勉強が学生としての本分だろ」

「はー、これやからノサカは。どーせこの春学期もオールSなんやろ?」


 ちなみに向島大学の評価は最高がS、以下A、B、Cと来て不可がFだ。それを数値化して平均を取るGPA(Grade Point Average)なんて成績の付け方もありますね。


「何でノサカがSばっかりなんにボクは必修落とすん? 教授がえこひいきしとると思うんやよ」

「お前が去年必修を落とした理由はひとつだろ。って言うか去年だって課題教えろとか言うから教えたのに落としやがって。それはそうとして、今年はちゃんとやらないとマズいんじゃないのか」

「何が」

「ほら、理系は2年での留年があるだろ」

「えー! そんなん知らんよ! えっ、単位いくつで留年なん!?」


 俺自身、留年の心配をしたことがなかったので留年の条件など知るはずもない。というワケでさっそく調べてみる。すると、「2年次修了時点で学部固有科目を40単位以上修得していること」とある。

 ちなみに俺たちのいる情報科学部情報メディア学科は半期ごとの履修制限が24単位。今が2年春学期、つまり第3セメスターなのでここでフルに取れればトータル72単位か。いや、1単位の体育が2つあるから70か。

 当然普通にやっていれば留年の心配なんかする必要はないのだ。現に俺は現時点でほぼほぼ進級が確定しているようなものだし。履修がほぼ同じなのに俺とヒロでここまで差が付くからには、やっぱり何かあるんだろう。


「留年はしたくないわ」

「なら気合い入れてやれ」

「まずはノサカがいろいろ教えてくれるトコからやと思うんやよね」

「意味が分からない」

「ボクノサカみたく引きこもって勉強ばっかりの腐った人生送りたくないわ、もっと楽しいことあるやん」


 インドア派であることは否定しないが俺にとっては勉強も楽しいことのひとつだし、勉強以外の趣味だってあるんだから余計なお世話だ。それに勉強は俺の目標とする“愛する人と、その人と築く家庭を守る”ための力をつけることにも繋がるんだ。


「と言うか人に物を教えてくれと頼む態度ではないな。お前誰が腐ってんだ」

「だってボクに教えることでノサカはこれまでの復習出来るんやから得するやん。てかあれやよ、災害ボランティアとか行ったら単位おまけしてくれんかな40くらい」

「お前の性根が腐ってる」

「やらん善よりやる偽善やよ。単位抜きにしてもボランティアには興味あってん」

「それはいいけどまずはテストだろ」

「文系てズルいよね、留年ないしりっちゃんも菜月先輩も普段あんなにサボっとるんに余裕っぽかったし」

「そもそも文系と理系では問われる能力やテストの形式にも差があるし、律と菜月先輩は文系のテスト期間に必要な能力が天井ぶち抜いてるからな」


 そもそもお前が選んで入ってきた学部だろと。いや、入試だの入学の経緯は聞いたけど、仮に興味がない学部だったとしたって最終的に入ったのはお前なんだからそれはそうとして納得して学べよという話で。

 この感じだったら仮にお前はちゃんと希望通りに環境科学部に入れてたとしても今みたいにズルいだのめんどいだのなんだのとわあわあ言ってたに違いないんだ。いや、でも集る先が俺じゃない別の友達だったとすればその方が良かったかもしれない。

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