解散前の打ち合わせ

「うぇ~! なんスかこのシフトー!」


 テスト期間でバタバタしている繁忙期の情報センター。今日も1日何とか回して、センターを閉める作業をしながらのお知らせ。テスト期間が終わってからのシフトの話だったんだけど、これに冴さんの叫びがこだまする。


「つべこべ言うな冴」

「だって、自分だって一人暮らしなンすよォー、自分も帰省したいンすけどォー!」

「お前は実家からでも通える距離だっつーことは知ってんだよ。わかったらこれを呑め」

「うぇ~!?」


 テスト期間が終わると大学は夏休み、つまりセンター的には閑散期に入ることになるそうだ。閑散期には、普段は朝の9時から夜の8時まで開いているセンターも朝の9時から夕方5時までの短縮開放になる。

 ところで今起こっているシフト問題。情報センターで現状アクティブな学生スタッフはバイトリーダーの春山さんをはじめ、林原さん、冴さん、そして俺の4人。このうち、向島エリア内に実家があるのは林原さんだけ。

 一人暮らしをしている面々はある程度まとまった期間の帰省をする予定でいる。俺もまとまった休みをもらうし、その調整は春山さんの仕事。だけど、そうすると林原さん以外に誰を多く入れようかと。そこで、白羽の矢が立ったのが冴さんだ。


「大体、2週間に1回は週末に帰ってんだろーがよ」

「帰ってますけどォー」

「山浪なんざすぐ隣なんだから出て来い」

「ミドリだって隣じャないスかぁー! 長篠は向島のお隣さんですぅー!」

「えーっ!? 確かに隣ですけど俺の実家は北の方の田舎なんですよ! そこから通うのはさすがに無理ですよー!」

「いいか冴、そういうことだからちゃんと出て来い」

「へーい、わかりやしたよォー」


 これは見るからに渋々諦めたって感じだけど、一応無事に冴さんがこのシフトを納得してくれたようでよかった。で、閑散期のシフトがどんな感じなのかと言うと、繁忙期などとは違ってスタッフはいても2人だ。

 本当は1人でもいいくらいだけど、スタッフは極力2人いた方がいいから時間をかぶせるところはかぶせるけど、ご飯を食べたり適宜中抜けしたりは一緒に入る人に相談しながらやってーというようなことみたい。


「やっと醜い争いが終わったか」

「リン、随分と余裕だなァー、腹の立つ面しやがって」

「帰省組の事情などオレには関係ないからな。問答無用でほぼ毎日フルで入るような形になっとるではないか」

「何か文句でもあんのかよ、実質的住所が大学のクセして。芋投げつけんぞコラ」

「オレは魔女だった覚えはないが」

「口答えすんのか、アーン? 大体意味わかんねーんだよ何だ魔女って。何にせよ、クソ生意気なリンは各種土産が要らないっつーコトで」

「それとこれとは別件だろう。爆買いは弾んで、どうぞ」


 確かにシフトを見てると林原さんの欄がびーっちり埋まってるんだよなー……春山さんはがっつり帰省するし俺も夏合宿の関係で結構いなかったりするし。冴さんはまあ入ってる感じがするけどそれでも林原さんの欄の黒さがすごい。

 センターの時給は1000円で、センターの日給上限は6000円。林原さんがここに缶詰になるとすればこの閑散期でいくら稼ぐんだろう……と思ったけど閑散期でも繁忙期でも林原さんと春山さんって割と常に缶詰だった!


「しかし、今後もこのような問題が発生するだろうし、スタッフの増員も視野に入れねばならんのではないか」

「あー、じゃあビラでも貼っとくか」

「求人すんのになっすんの許可はいらないンす?」

「あ~ナニ、現場じゃこの芹サンの言うことが絶対なんだよ。なっすんには事後報告でいーだろ」


 さっそく刷りたてほやほやのプリントが出てきたところで、それを受付横の掲示板に貼りますよね。って言うか所長より春山さんの言うことが絶対っていうのもスゴい話だと思うワケで。まあ、でもわかんないでもないかな。所長さん影薄いし。


「林原さん、閑散期ってどんな感じなんですかー?」

「まあ……そうだな、利用者がいないなどもザラだから、何かしらの暇潰しを用意しておくといいだろう。B番が自習室に入らん日もまあある」

「え、そんなレベルなんですか」

「そんなレベルだ。だから8時間をどう潰すかの戦いだ」


 そこで、俺は自分の主に入る8月のことを考える。夏合宿のトークを考えたり、本を読んだり、あとはえっと、何しようかなーって、あくまでバイト中だった! あんまり期待したらそれがひっくり返ったときにしんどいからほどほどにしとかないと。


「それじゃ、9月の履修登録まで、かいさーん!」

「おい、まだテスト期間は終わってないぞ」

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