この世を生き抜く力が欲しいか

 初心者講習会が終わり、その報告も兼ねた定例会が終わった。講習会に関しては、当日は目立ったトラブルもなく無事に終わり、三井は最近向島でも目撃情報がないんだよということを報告。奴の動きに関しては、今後も警戒することでまとまった。

 で、その後の夕飯だね。僕が伊東と食べに行くことは多いけど、そこに残る3年生の全員がついてくることは稀。だけど今回は何がどうしたのか、5人での夕食会になりそうな雰囲気。

 三井が連れてくるはずだったプロ講師とやらの予定がつかなくなった原因は結婚式だった、というのはさる筋から聞いた。その話をチラりとしたら、やっぱり女の子は夢を見るんだね。ヒビキが食いついてきて。


「こないだの9日なんか大安だし結婚式日和だったってコトだよね! あ~あ、いいなー結婚、玉の輿!」

「そうは言っても、僕たちが結婚について考え始めるには約1名を除いてまだまだ早くないかい?」

「圭斗、もしかして約1名ってのは俺のことを言ってんのか」

「ん、バカップルで名高い伊東以外に誰がいるというのか」

「まあ、結婚するなら就職先の給料だけじゃなくて福利厚生、それから住む家や保険のこともあるしなー。将来的には子供も欲しいと思ってるから、子育てに関するサポートも調べてさ。知らないだけで役に立つ公的サービスがあればいいけど」

「うわー、さすがカズ、現実的」


 言ってしまえば伊東はバカップルなだけで、この5人の中では普段から最も現実的な考え方をする男ではあった。まあ、僕たちの年代でそこまで考えているのが別格とだけは言っておこう。


「ビッキーはさ、玉の輿志望じゃんね」

「そうだよ。お金はないよりあった方がいいもん。で、富は地位や名声に寄ってくると思ってるから」

「ヒビキ、愛は要らないのかい?」

「お金がなくても愛があれば? そんなのウソウソ! 愛じゃお腹は膨れないし、お腹の膨らまない家庭に愛は生まれないから! で、美味しくご飯を食べるには? そう、お金!」

「あー、これだけはわかる気がする。うちは兄さんがご飯だけはちゃんと食べなさいってやってくれてたもん」

「そうでしょ大石クン! お金を得るためには自分を磨いてお金を生み出す、それかそれを元々持ってる男を掴みに行かなきゃ! 確率を上げるためにも自分を磨く! 隙だらけでバカな女が可愛いとかって言われてるのは愛人にして使えなくなったら捨てられる都合のいい女としては可愛いって意味だからね」


 ヒビキのこの話に、ムラマリさんとの話である程度耐性のある僕以外の男3人がしっかりとドン引きしている。女って怖いな、と。ヒビキは秘書検定の勉強をしたり、各種スキルアップに日々励んでいる。玉の輿のチャンスを逃さぬように。


「ま、その点僕は愛も富も権威も持つ予定だからね。お金にも困らないだろうし」

「あー、すげー自信。さすが圭斗。ちーちゃんは?」

「えー、まあ、お金はないよりあった方がいいけど愛が大事だと思うよ。最悪、お墓さえ守れれば婿入りでも何でも」

「ちーちゃんはささやか」

「ヒビキとは大違いだね」

「大石クン、欲が無さすぎる!」

「え、欲はあるよ」

「どんな?」

「家族が健康に暮らしてる幸せな家庭。最高の贅沢だと思う」

「もっとガツガツしても罰は当たんないよ」

「でもちーちゃんにはそれが一番欲しい物だしさ、ねえビッキー。価値観は人それぞれだしね、ねっ」


 育ってきた環境が違うから、というヤツだね。大石君の言う「家族が健康に暮らす家庭」というのは彼が両親を亡くして失ってしまった物だから、なおさら尊く映っているのかもしれないね。


「じゃあビッキー、俺たち4人の中で結婚するなら誰がいい?」

「大石クン」

「うわ即答!」

「わー、ありがとう」

「え、何で? 圭斗なんか、野心に満ち溢れてて将来的に良さそうだけど」

「圭斗はさ、俺が俺がって、ドヤ感がねー。カズは現実的すぎていい加減なの許してくれなさそうだし朝霞クンと暮らすビジョンはないよね。大石クンはね、学歴、スタイル、人の良さが揃ってるからあとは仕事! えっ、家事も出来るよね」

「一通り出来るよ」

「良物件…!」

「でも、俺の人がいいかはわかんないなあ。俺、子供の頃に怒って親戚と絶縁してるし」

「親戚少ないのも好ポイントだわ~」


 結果、「女怖い」という印象を男たちに植え付けたヒビキの玉の輿願望。僕たちが結婚どうこうを考え始めるにはやっぱり約1名を除いて早すぎたし、女性の考えという物と自分たちのステータスという物をすり合わせて考えたくはないね、という結論に達した。どうせ僕はガツガツしすぎてますよ。

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