あの頃と近況

「おーい広瀬ー!」

「マー、お前は相変わらずテンション高いな」

「まーまー。さ、行きましょうや」


 4年にもなるとサークルもとっくに引退して、今では卒論だの就活だのに忙しくしている奴が多い。俺も卒論はともかく就活はある程度やってるし、バイトもまあまあやっている。今日は久々にサークル関係の友達と飯でもという話になっていた。

 俺と広瀬は2年の時に対策委員で議長やら委員長やらとして活動していた。当時のインターフェイスはプロ志向の人が多かったけど、その中でもプロになることにこだわらず楽しくラジオをやりたいという奴も増え始めていた激動の時代だ。

 そんな時代に夏合宿やらスキー場DJやらを企画運営して、自分たちの学年の中でも多少ギスギスはしていて。それでも俺と広瀬はまあまあ仲が良くて現在に至っている。広瀬は緑ヶ丘のアナウンサーで、俺は向島のミキサーだ。


「それで広瀬、最近どーよ。あれじゃん、FMむかいじまのパーソナリティーコンテストに出たとか出ないとかって聞いたけど」

「ああ、こないだ終わったトコ」

「どうだった?」

「俺は一応準グランプリをもらって」

「えー! マジかよすげーじゃんか!」


 しばらく会わない間に、広瀬は地元のFMラジオ局で開かれていたパーソナリティーコンテストに出ていたようだった。そのコンテストで優勝すると、賞金10万円の他に、ラジオパーソナリティーとして番組を持てるという賞品があるようだった。

 そのコンテストで準グランプリを取ったらしい広瀬は賞金2万円とラジオ番組へのゲスト出演をすることになったらしい。別に広瀬本人はこれで飯を食いたいというワケではなく、出来心で参加した結果だと言うからさすが緑ヶ丘と言ったところか。


「で、高崎を引き摺ってったんだよな」

「おー! マジか! で、高崎はどうだったんだ?」

「審査員特別賞ってのをもらってたな。元々特別賞っていう概念はコンテストになかったんだけど、急遽作られた賞で」

「へー、若い子が頑張ってるのを見るとおじちゃんも嬉しいですよ~」

「お前、今の3年のアナウンサーじゃ高崎に目をかけてるって感じだよな」

「まあ、スキー場に行った間柄ですしね」


 広瀬が言うには、高崎はコンテストに出ることに乗り気じゃなかったらしいけど、そこは何か先輩の権力とかノリとか勢いみたいなものを使って引き摺って行ったらしい。乗り気じゃなかったにしろやるからには、と出した結果がこうだからさすが緑ヶ丘だ。

 コンテストや何かで結果を出しやすいのはやっぱりアナウンサーだなと思う。ミキサーの大会なんて俺が知らないだけかもしれないけど聞いたことがないし。広瀬から語られるコンテストの様子はとても華やかで、それでいてピリピリしていて現場の空気を感じる。


「ああ、そうだマー」

「うんにゃ?」

「そう言えば、コンテストに三井がいたぞ」

「マジかよ」

「2次選考には行けなかったみたいだけど、あれは間違いなく三井だったなと」


 三井は楽しくやりましょうという派が大多数を占める今の3年の中に生き残るプロ志向の残滓のような奴だ。MMPの中でもちょっと浮いていると言うか。代表会計としてサークルを仕切る圭斗とは性格も方向性も全く合わないし、菜月がいないとMMPは崩壊してるよな、という意見で麻里とは一致している。

 コンテストに出て仮に結果でも残していよう物ならMMPどころかインターフェイスをも荒らしかねない。だからアイツには悪いけどさっさと落ちてくれて本当に良かったと思っている。自分が無残な結果に終わったコンテストの話をすることはまずないだろう。


「マー、お前はどうしてるんだ?」

「俺はあれですよ、就活の合同セミナーとかで大人のお姉さんにうはうはしてますよ」

「安定だな。でも、ふざけながらもちゃんとやってんだろ?」

「どうかな~」


 おとぼけの村井おじちゃんの顔でそれとな~く就活やら何やらの波をかわしてるくらいがちょうどいいですよね。真面目にもやるけど、場面場面に応じた顔はちゃんとしますよ。


「とりあえずあれだな、コンテストの話ももらったことだし、今度サークルにでも遊びに行ってこようかな~」

「マー、あんまり圭斗の邪魔をしてやるなよ」

「あー、へーきへーき。アイツ俺の事先輩だと思ってないから。お前は緑ヶ丘のサークルには顔出さんの?」

「俺がいると高崎がやりにくいだろうからな。よっぽど咲良から誘われたとかじゃないと行こうとは思ってない」

「は~、お前は後輩思いだねえ」

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