背後のミス・ゴースト
来たるファンタジックフェスタに向けて、定例会は日々会議や打ち合わせに忙しくしていた。大体決めることは決まってきたし、各班の報告も……まあ、状況は班によってそれぞれだけど、大体の班がいい感じに仕上がってきている。
機材は星大さんの物を借りることに決まったし、リクエストに使うMDストックはさっき物置部屋を掘り起こしてきた。集合時間も決まってるし、他に何か確認しておくことはあったかな、とみんなで考え始めたときのこと。
「伊東、ここに来て僕は大変なことを思い出してしまったよ」
「ちょっと待って圭斗マジで怖い」
「で、何を思い出したの?」
「ん、装飾問題だね」
「あー! それがあった!」
「本当にすっかり忘れてたな。どうする」
装飾というのはその名の通り飾り付けのことだ。特にこの場合、機材のケーブルだのなんだのでごちゃっとするDJブースの足元をすっきりと隠す垂れ幕的な物のことを指す。一般的には机に模造紙製の幕を貼るんだけど、その存在をすっかり忘れていた。
ファンフェスはもう明後日に迫っている。と言うか今からその話を持ち帰ったところで作業出来るのはたった1日だ。装飾は別になくたって死にはしないけど、見た目が汚いよりはきれいな方がいい。
「実質1日で装飾作るのか。資材を調達して、それらしいデザインをしてとなると思う以上に厳しいな。授業もあるし」
「ここにまたみんなで集まるのかな」
「ん、明日はもう別の団体さんがこの部屋を押さえているから、ここに集まるのは物理的に不可能だね」
「じゃあどうすんだよ」
「僕に任せてほしい。僕のイタコ的能力に賭けてくれないかい」
圭斗の言っている意味が全くわからなかった。俺の場合、そもそもイタコって何だっけというところから始まる。とにかく、圭斗が何とかしてくれるという認識で良さそうだけど、本当に大丈夫なのかな。
「ねえ朝霞」
「どうした大石」
「俺、圭斗の言ってる意味がよくわかんないんだけど。イタコ?」
「イタコっていうのはアレだな。端的に言えば死者の霊を下ろすことの出来る信仰習俗職の一種だけど、シャーマニズムの分野だから長野の専攻だな」
「あ、ヒロの好きそうな分野なんだね……」
「高ピーは嫌いだろうなあ」
「お化けかあ。お願いすれば俺の父さんや母さんも下ろしてくれるのかな」
「いや、つかお前は事情がガチすぎるし、えっと、死者商法に騙されないようにな」
「でも圭斗がその、イタコ? だとは思えないし装飾がどう関係するの?」
「……ゴーストライターでも下ろそうとしてるんじゃないか?」
「ご名答。僕たちの明日は向島インターフェイス放送委員会の誇るゴーストライター様にかかっていると言っても過言ではないね。ちなみに大石君、明日は班の打ち合わせなどは」
「ないよ」
「なら材料さえあればイケるな」
圭斗はめっちゃドヤってるけど、今の件を簡潔に訳すると「なっちさんに頼み込む」という、なっちさんからすればこの現場にもいないのにムチャクチャな話だと思う。だけど、定例会は実際なっちさんにおんぶにだっこ状態だ。
ゴーストライターという役職名で定例会では「なっちさん」という意味で通じてしまうくらいにはお世話になっているのだ。それというのも、圭斗は美形なのに字が救いようがないくらいに汚い。書類の代筆は基本的になっちさんにお願いしているのだ。
圭斗の言わんとする「今時書類を直筆しろだなんてナンセンスだ」というのもわかんないでもないけど、それでも直筆する必要がある以上読める字で書く必要がある。締め切りに余裕のある書類などはあらかじめ向島に持ち帰ってもらっているのだ。えっ、俺たち? 議長名義の書類を代筆する度胸なんかないですよねー。
「そういうことだから、定例会議長ならびにMMP代表会計からの要請ということで菜月様に作業してもらうし、この作業にかかった経費はインターフェイス持ちで」
「おい、今コイツ権力でなっちを捻じ伏せるっつったぞ」
「うわー……さすがと言えばさすがだけど。まあ、圭斗だもんね」
「ん、朝霞君大石君、何か言ったかな?」
「何でもないです」
「ううん何でもないよー!」
「言ってしまえば僕が代表でお願いするのには違いないけど、これは定例会全員が菜月に頼むということだからね」
圭斗の圧倒的な権力でもってなっちさんに動いてもらわないと俺たちがてんてこまいになるのは事実。俺だけが言ってるんじゃねーぞ、お前らもなっちさんに投げてんだぞと言われてしまえば、ははーとひれ伏すしかない。……あくまでなっちさんにな!
「……ん、もう何も忘れてないかな?」
「忘れてないと思いたいけど」
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