Small strike zone

「さて、皆さん3日間勧誘活動お疲れさまでした」

「お疲れさまでしたー」

「ビラを配り終え、ポスターも掲示してあるので後はMMPに新入生が入ってきてくれることを祈りましょう」


 今期は「ゲッティング☆ガールプロジェクト」を掲げ新入生勧誘活動に勤しんでいた放送サークルMMP。規定の上限となる300枚刷ったビラを3日間で全て配り終え、一旦サークル室に撤収してきた。

 僕、松岡圭斗はこのサークルの代表会計として一旦この場を閉める挨拶を。ただ、ビラを配りました、1年生が来ればいいねだけでは済まない問題がいくつか。それを今ここで釘を刺さねばならない。


「で」

「ん?」

「こほん。菜月、野坂。主にお前たちだな」

「うちがビラとポスターを全部書いて学生課に提出してハンコをもらって、そのビラを印刷して半分にカットした上で配って春風の似合うぽわぽわして可愛い癒される女の子の連絡先をゲットしてきた以外に何をしたって言うんだ!」

「その件は心からありがとう。でも僕が今言っているのはビラとポスターを書いてくれた以下略の件じゃないんだよ」

「わー、代表会計の横暴だー」

「うるさい! お前たちはな、選り好みしすぎだ! 自分の好みじゃなければ平気でスルーするわ、ビラ配りそっちのけで品評会を始めるわ、俺だって代表じゃなかったら参加したかったっつーの!」

「一人称が俺、つまりガチか。いや、お前の都合は知らないけどな!」

「こほん。最後の本音はスルーして欲しい。どっちにしても、可愛い女の子をゲッティングするなら手当たり次第に配れという話でだな」


 菜月好みの女の子だの野坂好みのイケメンだの、やれあれはどうだときゃっきゃしている光景は、会話さえ聞かなければ美男美女でそれなりに絵になっただろう。ただ、ストライクゾーンの狭さがあまりにも悪質で。

 確かにMMPというサークルは下衆を極めた畜生集団だ。そこは認めよう。昨年引退された先輩方がああなのだからそれは最早MMPの特色ということで仕方ないし、僕自身そういう集団に揉まれている。

 ただ、今は新入生を迎えるという大事な時期だ。初っ端から下衆でムライズムでラブ&ピースな畜生っぷりを見せているとせっかく来てくれた子たちが逃げかねない。幸いMMPは放送の実力はまあまあある。それならどこまで騙し通せるかの問題で。


「つまり、圭斗が思うこれからの課題は、仮に来てくれた子をどう騙して後戻りの出来ないところまで染めるかみたいなことだな」

「ん、そういうことになるね。と言うか主に化けの皮を被る必要があるのは菜月だね」

「何でうちが。春風の似合うぽわぽわして可愛い癒される女の子には優しくするぞ」

「逆に言えば、そうでなければやる気がないということだろう?」

「そうなるな」


 菜月の場合、特にやる気がないのは男が来たときだろう。サークルに関する説明は僕で何とかなるにしても、こんな風に番組をやってますという例はやはり向島インターフェイス放送委員会で“アナウンサーの双璧”とまで呼ばれる彼女にお願いしたい。誰相手でも等しくやる気を持ってもらいたいのだ。


「例えば、菜月が優しく女の子をここで迎えたとしよう」

「うん」

「ここで野坂がやらかす」

「俺がやらかす前提ですか」

「すると菜月は野坂に対してローキックを繰り出すだろう。一見優しくアナウンサーの実力もある女の先輩が、情け容赦なく後輩にローキックをかますとわかったときの衝撃だよ」

「ローキックをするかしないかはやらかしの内容にもよるぞ」

「どっちにしても、毒の成分をいくらかは薄めてもらわないと」


 先代代表会計の遺したムライズムという名の悪ノリ、それからラブ&ピース=抹殺という物騒な思想。あまりに最初から飛ばしすぎると1年生は間違いなく引く。それが僕の予想だ。だから、ぜひとも最初は言葉通りの意味でのラブ&ピースを体現して欲しいのだ。

 MMPで毒の成分が強いのは菜月とミキサーの2年生・りっちゃんだけど、りっちゃんはビラ配りの時も新入生には優しくしてたしさほど心配していない。きっと後輩と女性には優しいタイプなのだろう。同級生以上と男に対しては容赦ないのだけど。


「とにかく、頼むよ。このゲッティング☆ガールプロジェクトは菜月の企画だろう。言ったからにはある程度責任を持ってもらわないと」

「そう言われてもなあ。あっ、男はノサカの担当にすればどうだ? 男好きだし」

「その表現には語弊があります! 菜月先輩が春風の似合う(略)子を求めるのと同様に、俺にだって求めるイケメン像というものが」

「……だから菜月、野坂! お前たちは今まで何を聞いてた! 今後一切選り好みは禁止だ!」

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