安全運転で

第12話  お買いモノ

「それじゃ、行ってくる」

「「行ってらっしゃーい」」


 玄関から声をかけると奥から声が帰ってくる。

 それと同時に玄関に来る足音。


「行ってらっしゃいませ、誠さん」

「行ってくるよシャロ」


 エプロン姿のシャロに見送られ俺は買い物に向かう。


 + + + + + + + + + +


「あら、奇遇ね」

「そうだな」


 あるバスの中、後ろの席で顔を合わせた。奇遇が起こす不運だ。


「いつまで立っているの。座ったら」

 

 自分の席の隣を叩く。座れってことだろう。

 バスが動き出すし素直に俺は隣を座る。

 隣を座る彼女は不適な笑みを見せた。それが森亜 黒子もりあ くろこと言う女である。

 バスは次のバス停に停まり、数人が乗り込む。


「おい、お前たち動くな!」


 大声が聞こえた方を見ると刃物を持った男が立っていた。

 人とはいざいつもの日常が非日常に変わった瞬間に思考が止まる。動くことができない。

 その一瞬はかなりの時間に感じた。その一瞬の時間から解放された人は悲鳴をあげる。


「うるさい!静かにしろ、そうすれば誰も傷つけない」


 刃物(刃渡り10cmの小型ナイフ)を運転手に向ける。


「このまま運転を続けて、客を乗せるな」

「……は、はい」


 運転手は男に従いしたがい運転を続ける。

 黒子が俺の服の袖を引っ張り顔を近づける。少しいい匂いがしたのは黙っておく。


「誠、あの男は何のためにバスジャックを」

「知るかそんなこと」


 まあ、シャロや瑠奈、もしくはお前ならわかるだろ。

 俺が考えるのは普通に考えて金目当て、それとも他の目的が。


「君の目的はなんだ」


 二人で話しをしていると二つ前の席の男が立ち上がる。後姿から見て年齢は40前後、なで肩の俺の肩とは違うことがわかった。


「もう一度言う。君の目的はなんだ」

「お前は、なんだ」

「こういう者だ」


 そう言って懐からある物を取り出し、刃物を男に向ける。

 他の乗客は何が起きるのか見守る。

 俺も動きを見ていた。


「……警察」

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