第9話 幻とは可愛そうに

「新聞部、部長……」


俺は驚いた顔を向ける。


「なに驚いているんだ?この部屋の鍵を開けたじゃないか」

「た、確かに」


この部屋に案内された時にこの部屋の鍵を持っていた。


「それで今朝の壁新聞の事を聞きにきたんだってね」


そうだった。俺たちはそのことを聞きここまで長い道のりをかけて来たんだ。

目の前のことで少し驚いて忘れていた。

瑠奈は気がつけば部屋パイプ椅子に座っていた。俺も隣に座る。


「さっそくだけど壁新聞の事を詳しく知りたいんだけど」

「あれ?見てないの壁新聞」


瑠奈の言葉に驚いた顔をする。

部長は自分の席なのか豪華そうな椅子に座り話しをする。


「見るよりはこうして直接聞いたほうが早いでしょ」

「なるほど、確かに」


瑠奈の意見に頷きながら何度も「そうだよね」と言う。

俺は黙って瑠奈と部長の会話を聞き入れることにした。


「簡単に言うと我が校の野球部の部室に置かれた幻のホームランボールが盗まれた」

「幻のホームランボール?」

「幻と言っても練習試合でやっと出たホームランボールのことさ。きっとあれは野球部では始めてで最後のホームランボールだっただろう」


それほど我が校の野球部は弱いのか。

甲子園は夢の夢か。


「そんな幻のホームランボールが昨日突如として消えたんだ」

「昨日。目撃者は」

「目撃者と言うのかね、最後にボールを見た者は確かにあったと言う」


どうやら、目撃者はいないようだな。


「そして面白いことにボールを盗んだと思われる者は犯行声明を残していったと言う」

「犯行声明……内容は」

「これさ」


部長は壁の鍵がかかった棚からファイル出してページを開いて見せてくれた。


『幻のホームランボールは頂いた。

 これで君たちの大切な宝は消えた

             怪盗X』


「怪盗、エックス」


まさか怪盗と名乗る者が現れるとは。

エックスか、これは巷の怪盗とは関係ないな。


「どうだね、面白いだろ」

「確かに面白いですね」


俺は黙り込む瑠奈の代わりに答える。


「そうだった君たちの名前を聞いてなかったね」

「俺は誠、こっちは瑠奈です」

「そっかそっか。よろしく探偵部の二人とも」

「知っていたんですね」

「これでも新聞部部長だかね」

「いや、部長は知らないことがあるよ」


瑠奈は立ち上がり言う。


「私は探偵部怪盗係、海藤瑠奈ってことを!」


胸を張る探偵部の怪盗係。

巷の怪盗少女は黄ん髪をなびかせ言う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る