第14話過去

 このギアより小さく年下の少女が今のデュゲリス帝国のトップである。

 少し前までは歳の離れたアルバータ、つまりビクトリアの夫が皇帝であった。

 外国からきた小さな女の子、隣の国のガディア王国から連れてこられた。

 ガディア王国はデュゲリスより国力が弱く、ましてや帝国はスチームボットよりも強力なマナワールを蓄積し続ける兵器を開発しているともっぱらの噂であった。

 とても敵わない、そしていつ相手がガディアの領地、王権を狙いに攻めてくるか分からなかった。

 人質がいれば相手にすぐに攻撃される事はない、そう、ガディア王国のお姫様はシルバーブロンドの長い髪、まだ年端もいかぬが美しいビクトリアを人質として差し出した、政略結婚である。

 誰もがギスギスした関係の夫婦になると思ったが二人はとても仲がよかった、夫婦というより歳の離れた兄妹のようであった。

 しかし、アルバータ皇帝は病で亡くなった、それからである、彼の妻、幼くして皇帝となった彼女は他の皇帝の座を狙う者達から守るためドレスを焼いて髪を短く切った、シルバーの雨のように髪ははらはらと地面にゆっくりと優しく落とし、その優しさは彼女のものであった。

それはすでに地面に積み重なり、彼女は皇帝の名を名乗り、アルバータを弔う様に黒い軍服、そして顔には黒いヴェールを取り付ける。

 そして誓った、この帝国は我が夫の形見死してまで守りぬく。

 脅威になる者、国はすべて排除する。たとえ母国のガディア王国でも例外ではない。

 新しい兵器を完成させよう、マナワールを永遠に蓄積させる兵器、私は見た。

 人形(ひとがた)であったがそれはまさしく感情のない兵器であった。

 ☆

真っ白な部屋にギアとこの国の権力者が並んで立っていた、壁に何かがあったがそれが何か確かめる間もなくビクトリアが話を始める。

 「私は未亡人、この国がたった一人の友達、そしてこの国を強くするにはこの兵器、この人形が必要なのよ」

 ビクトリアは遠い目をしてまるでそこにギアがいないよう呟いた。

 ギアはあっけに取られて地面に倒れたまま顔をあげた、これはとても無礼な態度であったらしい、少女の軍靴でおもいっきり横腹を殴られた。

 大量の血反吐が真っ白な地面に飛び散る。

 ギアの鼻、口から止めどなく血が流れる、カッハと渇いた咳をした後彼はか細くビクトリアに訴える。

 「ど、どうして、皇帝陛下、私は由緒ある貴族でこの国のために……」

 少女王は血だらけのギアを憎むような目付きで睨んだあとふんと鼻をならすと吐き捨てるように言葉を放つ。

 「あなたの先祖の事知ってる?」

 ギアの先祖、オリバー=クロムウェル、彼は時の王、まだ帝国ではない時代にジェームズ一世を暗殺しようとした集団から王を身を呈して助けたらしい、しかし学校などでは習わなかった、いつも母親から聞いていた。

 「なるほどそう教わったのね」

 えっと考える余裕もなく、ギアは髪の毛を掴まれた。

 近くに少女王の怪しげな笑み。

 「それをずっと信じてたの? さすがご先祖想いの子孫だこと」

 ビクトリアの言葉に彼は狼狽え、目を泳がせる。

 「いいわねぇ、その表情」

 そう言った瞬間、ギアの頭を地面に叩きつけた!

 唇を噛んだギア、鉄のような匂いとヨダレの匂いが鼻に伝わってくる。

 地面はその血を吸うようにポタポタと白い床を真紅に染み込ませる。

 「あんたの先祖は自分が王を殺して権力を握ったゲス野郎なんだよ! ぶぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかぁ!!」

 叫びながらもどんどんギアを蹴り続けるビクトリア。

 「この国、この帝国、あの人の国を汚すものはたとえ過去であった事やその子孫でもぜぇたい許さない」

 怨みをこめるようにギアの頭を踏み続ける。

 遠くから見れば駄々をこねる女の子が地団駄を踏んでるようだ。

 「お楽しみはあんたのガールフレンドに譲るわ」

 辛うじて頭をもたげるギアは恐ろしい光景を目にした、壁に沢山の大小様々な歯車がカチカチと音をならしながら回っていたがその真ん中に服を剥ぎ取られたナナが嵌め込まれていた。

 ナナは目をつむりその歯車と同化している。

 

 

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