第10話決心


  「それで? そのまま引き下がってここに戻ってきたんじゃな」


  汚れた部屋にわたの出たソファーに座りエアパイプをぷーっとふきながらジェシカは(煙は出ていない)ギアを見ていた。 

  「わっちはせっかくお主らがイチャラブ、というのは冗談じゃが、あの娘との『でぇと』で人間らしい心が芽生えてくれればと願っておいたんじゃが、お主がそのようにだらしがないなら娘は帝国の兵器にしかならんのう」

 分かっている、助けたかったんだけど、僕にはできない。

 ギアは一人うなだれて心の中で愚痴をもらす。

 「そうかぁできんのかぁ、クロムウェルの名がなくのぅ」

 ピック、とギアはその名字で反応した。

 ギアの家系、今は没落しているが彼は貴族の生まれ。

 ギア=クロムウェル。

 それが今の様はなんだ、女の子も助けられず反対に助けてもらってしまった。

 ぐっと汗ばんだ手を握り、悔しくて歯をキリキリならした。

 でも、仕方ないじゃないか、僕は非力で軍隊に勝てる訳ない。

 下を向くギアに

 「言いわけを考えておるのか?」

 ウメコブチャをすすって足を組むジェシカ。

 クロムウェル家に代々伝わるモットー。

 ボロボロの家にそれだけ豪奢な飾りがついた額縁、金の文字で

『困っている者を助けよ』

 でもそれだけじゃない。

 ナナは化け物ではない、僕らと同じ人間だ。

 決心したように顔を上げたギアをニヤリとジェシカは満足そうに微笑む。


 次の日、まだ早起きの小鳥共がピーチク騒いでいる時にジェシカは研究所の屋根にサングラスをかけて落ちないように微妙なバランスで長椅子に座ってビキニで寝転んで新聞を読んでいた。

 新聞記事には『人間の形をした兵器、劇場を襲撃す』

 一面にでかでかと書かれていて次に

 『勇敢なるルースター大尉とその兵により人間型兵器は完全に捕まり民衆に被害を与える事はなくなった』

 梯子から何者かが屋根に登ってくるのを悟ったジェシカは新聞を折り畳み、ポイっと屋根の下に落とした。

 登ってきたのはギアである。

 火器を四丁ベルトに挟み込み仁王立ちをした。

 「お姫様を助けに行くんじゃな」

 ジェシカの言葉に彼、ギア=クロムウェルはゆっくりとうなづいた。

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