第7話悲劇から喜劇へ
ギアとナナはものすごぉい高い席に双眼鏡を持って座っていた。
天井には天使の絵が描かれている。
戯曲は『ロミオとジュリエット』である。
「ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?」
ジュリエット役の役者が屋敷のベランダで腕を伸ばして悲劇的に演じきってみせる。
隣にいるナナがコロコロと鈴のなるような声でギアに耳打ちをした。
「なんでロミオじゃいけないの?」
ギアは土竜のような声で吐露る。『トロール』
「誰かに聞いたんだけど何故にあなたはライバルのファミリーのロミオなんだい? そうでなければ私達は結ばれる事ができたのにって意味らしい」
真相はサオウしか知らない。
劇は続く。ロミオ役の男が眉をへの字にして--これぐらいパーフェクトなへの字はなかなか出会えない--苦しそうに言った。
「薔薇が雑草という名前でもそのかぐわしい匂いはかわらない。僕がモンタギュー家の男でも君を愛するロミオに変わりはない」
ナナは少しうつ向いてギアにまたも耳打ちする。
「私がナナという名前をつけられても中身は人形なのかしら」
チョイスミスをしたかっとギアは困って何も言わなかった。
大袈裟な身振り手振りを行いながらロミオ役の男のセリフは続く。
「おぉ、ジュリエット、おまひの顔を見るたびに戦場の戦太鼓のように胸が轟く。
どんな脆弱な兵士でもヘラクレスのような英雄のようになり、あの恐ろしいライオンを倒しその皮でもってヒュドラという怪物を倒せる勇猛な男に変えてみせる太鼓になる」
そこでロミオもとい役者は大きく手をふり、客席に体を向けて、心臓の方に両手を置いて次のセリフを言いはなった。
「そなたのまっちろい肌を見るたびにここが熱くなる。
もしそなた……おぉ、ジュリエット、そなたと結ばれないのならこの熱い場所よ今すぐに張り裂けてしまえ!!」
ジュリエットがロミオの方に屋敷のベランダから細長い指を届けとばかりにのばす。
「おぉ、その言葉であの東から昇る太陽のように私の体も熱くなってしまう、私のジュリアスシーザー、私の獅子心王」
「あの人たちもマナロイド」
いきなりの事だったので最初は気づかなかったがもう一回ナナはギアに言った。
「あの人たちもマナロイド、私もマナを蓄積すると、とても熱くなるあの人たちもマナロイドだわ」
ギアが止める間もなくナナは猛スピードで高い特等席から飛び降り、客席がガヤガヤと騒ぎ始めた、山高帽の紳士の頭を踏んづけてナナは舞台に飛び込んだ!
驚いたのは舞台の役者である、いきなり女の子が飛び込んできて『あなたもおなじ? あなたもおなじ?』と繰り返しゆさゆさ揺するのだから、ロミオ役の男のズラが落ちてピカリと頭が光る。当然この役者には光る所があるのだ。
パリスというロミオのライバル的な存在がなんとも可笑しな事にロミオを助けようとしてナナにノックアウトされたり、大人しいジュリエットが罵声を浴びさせるしっちゃかめっちゃかである。
それが可笑しいので悲劇が喜劇に変わり客席は笑いの渦にのみこまれた。
「ブラバァーーーー! ブラバァーーーー!」
客席のレディスアンドジェントルマンが立ち上がって拍手している。
ギアは恐ろしくて目を手でふさいだ。
それに水をさすように劇場の入り口に誰かが叫び声を張り上げた。
「さぁきほどぉ、ここに怪しい女の子とぉこぞうが入って行ったと聞いたぁのですぅがあ」
バットタイミングそこには帝国兵に囲まれたルースター大尉の姿があった。
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