第6話ヘイマーケット劇場

 何がなんだかわからないまま、ギアはナナと『でぇと』に行く事になった。

 ナナは左の顔が破壊されたためにボンネットというバケツを横にしたような帽子の親戚みたいなのをかぶり、左の方にひっぱって顔を隠した。

 ギアは師匠であるドクター・ジェシカがいつも薄いTシャツとズボンだけさらには外にはあまり繰り出さない彼女がこんな流行りものの服を持っているのに少し驚いた。

 やはり女の子なんだ。

 とそう思った束の間、ジェシカにはこのドレスは大きいと思いすべてお友達のメイドスチームロイドのマリアの服らしい。

 ジェシカは自分の服は買わずにマリアに着せて毎晩何事かよからぬ行為を行っているらしい。かなりヤバイ事も。

ギアはリョンドンの『でぇと』についてどこに行けば女の子が喜ぶか分からず、とりあえず昔バイトでやっていた観光案内をする事に決まった。『でぇと』とは程遠い。

 石畳のアーチ橋をコツコツ音をたてて歩いていると下の方から轟音が響き渡り、ナナが何事かとキョロキョロ辺りを見回してぎゅっとギアの右手をにぎる。

 その橋の下は線路が敷かれてあり、この街を通りすぎなければ行けないのでこのようにリョンドンの地面には時々線路から機関車がものすごい汽笛の音で溢れている。

 「このリョンドンはたくさんのコースに分かれているんだよ。Aコースにはベイカー街の駅、大量の本があるマリバン図書館、その他Bコースはカフェロワイヤル、紅茶は僕達大好きなんだ。でもここから近いのはヘイマーケット劇場、演劇が見られるよ、『サオウ』という人の戯曲が見れる」

 という訳でギアとナナは劇場で『サオウ』の戯曲を観ることにした。

 クリーム色の建物に太いパイプが取り付けあり、時々そこからプシュッと煙があがり、ただでさえ霧の濃いリョンドンの見晴らしを悪くしている。

 だが建物はとても美しい、規則的、かつシンメトリーな建物、ファンブラウン色のオサレな家その柱の先端は古代ローマのような植物の彫刻で彩られている。

 (眼鏡屋、なんでも見通せる、霧が深くてもくっきり丸見え)

 その宣伝文句がガラスに描かれているのを珍しそうに眺めているナナの手をとって大から小までの劇場街に一際大きなヘイマーケット劇場が彼らの前に仁王立ちしていた。

 悲劇の物語ロミオとジュリエット--モンタギューとキャピレットの壁を乗り越えようとする若人--とポスターに書かれていたのでそれを観ようとジェシカから受け取ったでぇとの費用で特等席の切符を買った。

 ギア達の『でぇと』スポンサージェシカは、島まで持っているという噂があるほどお金を持っているらしい。

 


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