第5話 霊廟

 昼前にセナに到着すると、街の奥へと進んだ。

 目的地は商業地区の先にあるという。 

 重厚な石造りの建物が並び、多くの人々でにぎわう活気ある大通り。

 そこを抜けて公園らしき場所に入ると、視界が一気に広がった。

 公園は相当な広さがあり、太い川がゆるやかに流れている。

 真太郎はふと、セナが平原に囲まれた街であることを思い出した。

「さて、ようやく着いたか。勘違いする前に釘を刺しておくが、奥にあるのは霊廟だ。試合が見られると思って、はしゃぐなよ。この儀式をきちんと済ませなければ、ピッチ&ヒットのプレイヤーにはなれないんだからな」

 花壇に囲まれた遊歩道が縦横に走る川の畔には巨大な建造物が一つ。

 アッシュは霊廟と言ったが、どう見てもそうではない。

 ただ、そこに眠る人物が、ピッチ&ヒットに深く関わりがあるのであろうことは察せられた。

「アッシュ君、今日はスランプか? 冗談のキレが今一つじゃないか。あれは俺が知る限り、スタジアムだ。バックスクリーンだってついている」

「言いたいことは分かる。あんなものを造って、昔の連中は暇だったんだろう。ちなみに、バットという道具はあそこに眠るおっさんが生み出した代物だ。あんたが大事にしている似非バットも、ザクター王がいたからこそというわけだ」

 畔に建つ霊廟。

 それは、コロッセオを思わせる荘厳なスタジアムだった。

 街中を移動している最中にも、真太郎はリーグ戦の開催球場を見掛けた。

 5万人規模の大型スタジアムだったが、印象に残るのは霊廟のほうだ。

 昨日今日造られたものでは醸し出すことのできない風格が、離れた場所にいても伝わってくる。

 この星、アズスタックではかなり古くからピッチ&ヒットが存在していたことが一目瞭然だ。

「おい、いつまでぼさっとしているんだ。さっさと挨拶をすませて飯を食いに行くぞ」

 布袋に入れた奉納用のバットを肩に掛けなおし、アッシュは先に進んだ。

 さぞかし大層な人物が祀られているのだろうと思うものの、詳しい話はまだ聞かされていない。

 把握しているのは、この霊廟を訪れなければ、別世界から訪れたプレイヤーはリーグ戦に参加できないということだ。

「そういえば、アッシュ君。道中に聞いた話だと、ピッチャー探しもこの儀式を済ませた後なんだよな。ぜひ忌憚のない意見を聞かせてくれ。マナのないバットを使うヒッターって、人気あるのか? もしチームが組めないなんて事態になったら、どうしたらいいんだろうな」

 いまさらかよ、とぼやくと、アッシュは大敗目前の監督のように肩をすくめた。

 特別な場所なのか、広々としているわりにあたりは人気がない。

 やがて霊廟に近づくと、入口付近に門番の姿が見えた。

 軽く言葉を交わして中に入ると、大回廊を思わせる石壁に囲まれた通路がつづいている。

 その先はグラウンドそっくりの開けた空間だ。

 やっぱりスタジアムじゃないかと言いかけて、真太郎は左を向いた。

 本来ホームベースがある場所には厚みのある黒い石碑が建っていた。

「あの石碑の前にバットを置いて、目をつむって跪けば今日の用事は終わりだ。後は俺がリーグ戦を主催している協会に、儀式を終えたと報告する。以上、これでパートナーが見つからない新米ヒッターの誕生だ」

 布の袋にしまっていたバットを差し出され、手を伸ばした。

 屋根がないせいで、空が眩しい。

 目を細めると、真太郎はゆっくりとグリップに指をかけた。

 

 


 


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