Day3

 よく来たな。俺はジョン=スパイラル・グッドスターだ。とつぜんだが俺は今、危機に瀕している。

 「アッ、これは強敵とかに遭遇するイベントだ!」とお前は思うかもしれない。ダンジョンの危機といえばモンスターというのは、脳がハック&スラッシュされたお前の発想だ。今すぐファンタジーをファイナルするのを停止し、もっと、ローグライクとかをやるべきだ。

 モンスターよりも、そして頼りになるソードオフ・ショットガンのアウト・オブ・アモーよりも不味いのは、ドリトスが切れることだ。

 ドリトス……それは、メキシコを生きるしんの男のエネルギーだ。たとえ真の男でも、ドリトスが切れれば、その瞬間に思考力はスライム並みになる。そして、タコス・チェーンはどこにでもあるわけではない。一度ダンジョンに潜れば、チャイナ・レストランの持ち帰り容器ともお別れだ。

 ドリトスに限らず、何を食べるか……そして、何を食べないか……それで、迷宮でのうんめいは決まる。

 その辺に生えてるキノコを食べたお前は死に、よく選んだ野草を食べたお前も死ぬ。魔物の肉を慎重にさばいて食ったお前も死ぬし、そして、何も食べなかったお前は、とうぜん、死ぬ……

 概念コロナと概念テキーラは常にお前とともにあるかもしれないが、カロリーゼロなので腹はふくれない。

 俺が何が言いたいかと言えば、そもそもダンジョンのものを食べるな、ということだ。ダンジョンはお前が食べ物を探す場所ではなく、お前が食べ物になる場所だ。けっして油断するな。

 そして、問題はドリトスだ。いますぐやせいのドリトスが茂みから飛び出してくれば、と俺もお前も思う。だが、そんなのはこしぬけの考えだ。ダンジョンでは、こしぬけに捕まった奴から死んでいくのだ。

 では、どうすればいのか?

 普通の『モグラ(モール)』なら、外から食料を持ち込む。そして、使い切る前に去る。それが賢明だ。だが、もし迂闊なお前や、或いは俺のように……食料を持たずにダンジョンに潜り、帰れなくなったらどうすればいいか?

 答えは、火だ。火をつかうのだ。お前が木の上とか洞窟の奥で震えている猿から、よく冷えたコロナを飲めるぶんめい人になれたのは、何故か? それは、火を使えるからだ。たとえばマッチ売りの少女だって、火のパワーをフルに使っていれば、みじめに凍死することはなかったはずだ。

 だが……悲しいことに、火は恐ろしいものでもある。うかつなお前が火を扱えば必ず悲劇を招くし、迂闊でなくともゲースロめいた無慈悲な火あぶりから逃れることはできない。火は無慈悲で、けれど平等だ。だから俺は、俺の前に火あぶりになるものを探すために、旅立たねばならない。

 狩りのじかんだ。

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