不老不死実験

 これまたスケのホムラが言っていたことだ。

「先月曾祖父が死んじゃったんだけど…。お棺から遺体がなくなってたの」

「はい?」

 俺とカゲトは聞き返した。普通なら「ご愁傷様です」って言いたかったが、ホムラが余計なことを加えるからだ。

「それでね、葬儀場の人が総出で探しても見つからなくて…。でも2週間前に、見つかったんだって!」

 ホムラによると、葬儀の前日には遺体が棺桶の中にあったらしい。しかし次の日、突然消えた。2週間前に、葬儀場の棺桶の中に戻されていたとのこと。

「コレ、絶対何かあるわよね」

「火葬される前に、誰かに会いたかったとか?」

 カゲト、そんな話に付き合うなよな。

「違うわ! きっと実験よ実験。不老不死を実現させる実験が秘密裏に行われていて、私のひいおじいちゃんが選ばれたのよきっと!」

 まあ、ホムラの話にカゲトのロマンチックが通じるはずないよなあ。


 不老不死は人類の夢だよ。秦の始皇帝も目指していたし、竹取物語にも飲むと不老不死になれる薬が出てくる。

 でもそれは、無理なんだ。命ある物いづれ死ぬ。それが自然の摂理。

 でも一部の科学者たちは、未だそれを求めている。そして不老不死への道を掴み取った。

 染色体には、テロメアってのがあるらしい。これは細胞の老化や不死化に関与してるんだと。

 動物の細胞って、一定以上分裂すると細胞周期が停止してそれ以上分裂できなくなるんだ。この原因がテロメアにあり、分裂の度に縮んでしまう。限界まで縮むと、細胞は老化する。そしてそれが生物個体の老化に繋がる。

 つまるところ、テロメアの長さを維持できれば、細胞は老化しなくなるから不老不死になれるってことだ。

 そんな夢の様な物質がある…んだよ。人間も持っている。

 名前はテロメアーゼ。生殖細胞や幹細胞では、発現して働いている。

 なんだ、もう不老不死は目の前じゃないか!

 でも、落とし穴がぽっかり開いている。

 仮にテロメアーゼによって、細胞分裂が上手い具合に止まらなくなったとしよう。分裂する細胞は老化しなくなるね。でも、分裂しない細胞は?

 脳をはじめとする神経系の細胞は、分裂しない(厳密には、3歳児までは分裂するけどそれ以降はしなくなる)。だから神経細胞はどんどん劣化していく。そして分裂しないので、若返ることも叶わない。

 もしも体中の細胞にテロメアーゼが働いて、常に若い状態をキープできたとしても、脳は年を取り続ける。見た目は若者、頭脳は老いぼれ。とてもじゃないけど名探偵なんてやってられないよ。そんな状態で生き続ける意味とは?

 さっきも言ったけど、人はいつかは死んじゃうんだ。長生きすることを目指すのもわかるけど、生きているうちに何か、輝けることをしようぜ。

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