タイムトラベラー

「ボクは2100年からやって来た、タイムトラベラーさ」

 俺が入院中に会った青年が、そう言っていた。俺だって最初は発言を疑ったんだけど、彼の名前をインターネットで検索しても、1件もヒットしない。だから少し、信じることにした。

「ジョン・タイターって知ってる?」

 俺が聞くと青年は、

「もちろん。彼のタイムマシンはもう随分前から使われてないけど、彼がいなかったら未来はなかったろうね」

 ならば、これから何が起きるのかを聞いたら、

「それは教えられないのさ。ボクの仕事に関係することだからね」

「仕事?」

「ボクはタイムインサイダーを摘発する部署にいるのさ」

 俺が、それは何かと聞くと、青年は素直に教えてくれた。

「未来世界では、何が、いつ、高騰するかがわかっている。そこでタイムマシンでそれが安い時代に行って、大量に買っておく。次に高騰する時代に行って、お金に替える。これをボクたちはタイムインサイダーって呼んでるのさ」

「歴史を変えるんじゃなくて利用するのか…。未来ではそんな犯罪があるのか」

「そうさ。だからボクたちがいるのさ。某漫画の言葉を借りるなら、ボクたちはタイムパトロールってわけさ」

 なるほどな。だからこの青年は未来の出来事を言うことができないのか。

「ここであんたが、いつどこで戦争が起きるか、災害が起きるかを俺に伝えてしまえば、俺もタイムインサイダーが行えてしまう。だがら予言の類はできないってことか?」

「その通りさ。キミ、察しがいいね。でも重要な未来に関わらないことなら少しぐらい、教えてもいいよ。もっとも、予言をネット上に残すような行為はボクの部署の仕事じゃないんだけどさ」

 そんな限定されても…。だが俺は何とか1つ、思いついた。

「過去に行って、歴史を変えようとしたらどうなる? もちろんあんたの仲間に捕まらないように。時間犯罪みたいなことはどうなる? 未来は変わるのか?」

「うむ。歴史改変はできると思われてるよ。でもね、かなり大きく変えようものなら、そのツケはデカい」

「と言うと?」

「それをしてしまったが最後、変わった世界線から戻れなくなるんだ」

 青年の説明を少しまとめる。

 彼によると、過去に歴史改変を実際に行おうとした犯罪者がいたらしく、戦争の終わらない世界を作ろうとして大量の未来兵器を積んで過去に飛んだらしい。青年の仲間はこれを止めることができなかったのだが、歴史は変わっていなかった。調査に向かった人、呼び戻しに行った人、犯罪者の仲間…。これらの人たちは、犯罪者が飛んだ過去に行ったっきりで、1人たりとも戻って来ることがなかったらしい。

 世界を違う未来に分岐させると、どんなことをしてもその世界線から脱出できなくなるそうだ。

「だからね…。ボクたちの間では、1991年12月14日には、戻ってはいけないことになっているのさ。その時代にタイムスリップしちゃうと、もうこの世界線には帰って来れない。改変された過去は、戦争が終わらない未来に向かっちゃうからさ」

 俺はもう1つ、質問した。

「サンジェルマン伯爵って知ってる?」

「ああ。ボクがこの時代にやって来る前日、バーで一緒に飲んだよ。彼の目的は、世界中の全人類と接触することだとさ。キミもいつか、会う日が来るんじゃない?」


 ジョン・タイターとは、恐らく世界一有名なタイムトラベラーだろう。ある時突然ネット上に現れて、数々の予言を残した。そして任務を完了すると、未来に帰っていった。

 その予言とかを解説したいんだけど、どういうわけか著作権登録されているので、やめておこう。米の国のある組織に訴えられたくないからね。気になったら自分で調べてみてくれ。

 さあさて、タイムインサイダーについて具体例を挙げて解説してみよう。まずは手元に1万ドルを用意…は無理だろうから想像してくれ。

 かつて、1ドルが360円だった時代がある。その時代に行って、ドルを円に替える。これで360万円手に入る。

 次に、1ドルが120円の時代に行く。今度は円をドルに替える。結果、3万ドルになる。

 さらにこれを繰り返していけば、無限に資産が増える。そりゃあ、犯罪行為にもなりますって。

 青年によれば、これからどうなるか知っている状態で、取引することが駄目らしい。今の時代では、未来に行くことはできない。だから現代の俺たちが株や仮想通貨で儲けることはセーフ。株式の知識を得ても、タイムパトロールに逮捕される心配はない。安心してマネーゲームしていいぞ。それで損しても俺は知らないが。

 それと世界線についてだが…。それこそドラえもんに頼まないことには、試せんな。タイムマシンが極秘に開発されたら、実証してもらうしかなさそうだ。

 でも彼の言葉から少しは考察できそうだ。

 未来をAとする。行きたい過去Bに飛んで、そこで歴史を変えて未来Cを作る。すると、過去Bは未来Cにしか分岐しなくなる。だが元々の世界線である未来Aは消えないし、歴史も変わりもしない。そして過去Bに飛んだ場合、未来Cにしか行けなくなってしまう。

 恐らく、過去Bに行ってしまうと、それより昔の過去Dに飛んでも、未来Aには戻れそうにない。だからと言って、未来Aから過去Dに行っても、歴史改変に関与しなければ無事、未来Aに戻って来られる。逆に言えば改変に関わらない場合、過去Dから未来Cには行けない。過去Dから未来Eを作れば、未来Aにも未来Cにも行けなくなる。

 要するに歴史を変えるのなら、変えた歴史に従うしかないってことだな。分岐させたが最後、嫌だからと言って戻ることは許されないってところか。

 ちょっと待てよ? コレ、改変を試みた人が帰って来ないって裏を返せば、確かめようがないって意味じゃないのか? 

 タイムパトロールの思惑が少し見えてきたぜ。歴史改変って本当は、元々の世界線にも影響するんじゃないのか? それを、戻って来られなくなるという恐怖と未来が変わらないという無意味さで、させないようにする…。

 これ以上はあの青年がここに戻ってきそうだから、やめよう。

 そう言えば、親殺しのパラドックスを聞くのを忘れた…! 何という誤算!

 それについては、次の接触を待つしかなさそうだね。答えてくれるかどうかは、別だけど。

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