リッパード・マウス・レディ・ザ・ファイナル

 気がつけば俺は、実家の周辺を歩いているといつも、赤いワンピースを探していた。

 都市伝説と言えば、いつだって口裂け女から出発するのだ。

 俺は無我夢中で探し回った。何故か今日を逃すと、二度と会えなくなる気がしたからだ。

「何処にいるんだー! 出て来い!」

 俺は無意味に叫んだ。すれ違う人からすれば、頭に蛆湧いてると思われること間違いないし。

 そして当てもなく、また走り出す。

「ムッ!」

 一瞬だけ、マスクをした女性が見えた。もちろん道を戻って後を追う。

「いない…だと?」

 さっきまでそこにいたはずなのに…。

 俺は落ち込んだ。もみじ公園のベンチに座った。

「見つけた」

 誰かが俺に言った。俺が顔を上げると、そこにはあの赤いワンピース。

「口裂け女か…」

 今さら出てくるなよ。もう俺、泣きそうだぞ?

「私、キレイ?」

 お決まりの台詞。

「女が醜いはずがないだろう?」

 俺は答えた。本来ならここで口裂け女はマスクを外すのだが、

「取らなくていいぞ。面倒だから」

 俺がさせなかった。口裂け女は俺の隣に座った。

「悩み事でも?」

 口裂け女が相談に乗るなんて、聞いたことないぞ? しかし、手詰まり感がある。

「…大学院に進んだはいいんだけどさ。これからやっていく研究は全然違う内容なんだよな。しかも将来はシステムエンジニアしかなさそうだ。進学しないで就職すればよかったんだ」

 将来については、誰だって悩むさ。

「そう悲観的にならないで。生きていれば道は多いわ」

 お前が言うなと言いたいが、やめた。

「俺は、都市伝説を研究してみたかったんだけどな。諦めて物理の道に進んだけど、間違ってたのかもな…」

「その考えが間違ってる」

 自分が都市伝説的存在のくせに、何を言い出すんだ?

「都市伝説に深入りしちゃだめよ。今すぐ引き返しなさい」

 そう言って口裂け女は立ち上がった。

「待てよ。どういう意味だ?」

 俺も立ち上がったが、そこにはもう口裂け女はいなかった。


 今現在に至るまで、口裂け女があのような行動をするということは報告されていない。こんなイレギュラーがあるのだろうか?

 俺は様々な文献を探したが、何処にも書かれていない。なら俺が、新しい行動を報告するべきだろうか?

 いや、やめておこう。恐らく何か、特別な条件を満たす必要がある。できないならいつも通りの口裂け女が出現するだけだ。

 最後に言っていたことも気になる。都市伝説に深入りするなだって? それは、警告なのか?

 色々と確かめるべきことがある。だが、口裂け女は、二度と俺の前に現れなかった。

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