異形なるもの・シボウシャ
俺が大学2年生の時だ。俺は入院していた。その病院で噂されていた話がある。
「形が異なるヤツがこの地方に来てるらしい」
何の話か俺はわからなかった。医者やナースに聞いてもはぐらかされて終わりだったからな。
「私、死んじゃうかも…」
同時期に入院していた10歳のアケビという女の子がそう言った。
「何でアケビちゃんが死んじゃうの? 俺より症状軽いじゃない?」
「形が異なるヤツが来るから」
「何なんだそれは?」
アケビは俺に説明してくれた。
「シボウシャとも言うんだって。体は、人間のパーツを適当に色々とくっつけた様な感じで、全国各地の病院に出没しては、霊安室の遺体から体のパーツを奪っていく」
う~む。
「アケビちゃんは生きてるじゃないか。その、何と言うか、お化け? 出てきても大丈夫じゃ…」
「子供が相手なら命も奪えるんだって…」
アケビは泣きながらそう答えた。
これは一大事。俺は実家近くの寺に電話した。そして住職に、お見舞いに来てもらった。
その夜だ。異様な気配を感じて俺は目が覚めた。時間は夜中の2時。ヤバそうだ。俺はアケビの病室に向かった。アケビの病室は俺の階より上なので、階段を登らなければ…。
それは、俺の目の前を平然と歩いていた。
頭は二つ。胴体は胸や腹が集まってピーナッツ型になっており、不均等な長さの肢のようなものが八本。蜘蛛の様な何か、としか言いようがない。
「ミ…ツ…ケ…タ…」
そう呟きながら、シボウシャはアケビの病室を目指す。俺には見向きもしない。
それが仇となったな。俺は懐から紙を取り出した。その紙には、「地獄に堕ちてもげろボケナス」と書いてある。
目には目を、歯には歯を、都市伝説には都市伝説を、だ。
俺は紙をシボウシャに貼り付けた。
「オ…オ…オ…オ…!」
シボウシャは体のパーツをまき散らしながら、転げまわる。そしてその場で暴れ回ると、階段を勢いよく降りていった。
「何だアレは…」
次の日病院内を回ってみても、何もなかったかのようだった。
効果がありそうな紙がなくなってしまったが、幸いにもシボウシャが再び姿を現すことはなく、俺もアケビも無事に退院できた。
都市伝説というよりも怪談色が強いこの話だが、ここであえて取り上げる。
というのも、これについては文献が全く見つからず、出所が本当の本当に不明。俺は題名をかっこよさげに「異形なるもの・シボウシャ」としたが、病院内ではもっぱら「形が異なるヤツ」や「シボウシャ」と呼ばれていた。名称すら定まっていないのだ。
アケビは一応漢字表記を知っており、俺に教えてくれた。「屍亡者」と書くらしい。これが「シボウシャ」と読むのが正しいかすら、わからない。
俺がここで取り上げたのは、異形なるもの・シボウシャは、新たに生まれた都市伝説である可能性が高いからだ。いや、認知されたのが最近で、もっと昔から存在するのかもしれない。
これは俺からの警告だ。入院する際は異形なるものに気を付けて欲しい。子供の命を奪えると言っても、どの年齢を子供とするかわからない。少なくとも入院時俺二十歳ではあったので、その歳なら形が異なるヤツは興味を示さないようだ。だが二十歳でも子供だという人だっているので、もっともそれは、シボウシャが一定の年齢で子供かどうかを判断している場合だが…。
新しい都市伝説である都合上、対処方法がまだよくわかっていない。俺は特別なアイテムで撃退したが、それがすぐに用意できるわけではない。
しかし、俺は必ず対処方法を見つけ出す。その時まで、もう少し待ってくれ。
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