口裂け女 三度
俺が就職活動をしている時だ。またあの、赤いワンピースを見かけた。何か俺、エンカウント率高くない?
べっこう飴は持っていなかったので、ここは前に実行できなかったもう一つの撃退法でいく。
俺が近づくと、女も振り返る。
「…」
あの顔は…。マスクをしていて下半分は見えないが、またお前かよ、って表情だ。俺も女も、お互いに無視したいに決まってる。だがそうはいかないよ。
「私、キレイ?」
女の台詞は決まっている。俺の解答は三択。まだ言ってないのがある。
「ベラボーに美人だぜ!」
女はそれを聞くとマスクを取り、裂けた口を見せる。
「これでも?」
女は言う。だが俺は無言だった。
(やばい)
何て言えばいいのか、ど忘れした…。
「これでもなの?」
女が迫る。早く刃物でも出せばいいのに、何故か俺の反応を待っている。待ち女だな。
「思い出したぁ!」
俺がいきなり叫んだため、女は怯んで後ろに下がった。
「ポマードだよポマード! ポーランドでも、マドレーヌでもなくて、ポマード!」
その単語を聞いた女は、急に力を無くしたのか、腕をだらんと垂らしてうつむきながら、ゆっくり歩いてその場から去っていった。
もし口裂け女と遭遇し、べっこう飴もない状態で、間違えて「普通」と答えられなかった場合には、ポマードと言うのが効果的だ。地域差があって3回とか6回という説もあるが、ただ単に口裂け女が逃げるまで唱えればいいと思うよ俺は。おっと誰だ、「普通」と答えればこんなこといらないとか言う輩は?
ポマードとは、整髪料の一種だ。主に男性が使う。
口裂け女と何が関係あるのかというと…。第2次口裂け女ブームの背景を見ればわかる。
1978年に流行った後、1990年代にブームがぶり返す。この時代、整形手術の話題がホットだった。
そこで話されたのが、口裂け女の起源だ。やっと明らかになった…。
どうやら整形手術に失敗して、口が裂けてしまったらしい。病院を訴えればいい気がするが、きっと闇医者闇手術だったのだろう。
その手術を担当した執刀医が、大量のポマードを付けていただからポマードが嫌いらしい。回りくどいにも程がある!
ちなみに口裂け女には姉妹がいて、口が裂けているのは全員だったり、一人だけだったりする。裂けた理由も、事故に遭った、自分で切った、やっぱり手術ミス等…かなり曖昧だ。
何でこうなっているのかを考察しよう。
恐らく最初に口にした、岐阜県のある一家庭が、口裂け女という存在だけを作って息子を怖がらせて、口裂け女について装飾するのを忘れてしまったからじゃないだろうか? 息子は話を聞いただけで塾に通うことを諦めたし、親は苦し紛れの言い訳で満足したんだろう。
しかし話は親が予想だにしていない方向に進む。詳しく描写されていないことを良いことに、人々が勝手に修飾してしまったってことだ。
口裂け女の存在。それはまさに都市伝説で、人々によって語り継がれると同時に、脚色され続けるのだ。
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