4-10 エピローグ

 それから一週間。ダイワクビレッジ中央広場ではマリシアとラルフの生還、ボルケオドラグーンの討伐などを祝い、乱痴気騒ぎの大宴会が行われていた。村人たち全員してもう飲むわ食うわ踊るわ。あげくに花火をガンガンに打ち上げて大騒ぎ。はしゃぎすぎて既にケガ人多数。

 もちろん。ラルフたち四人もそれに参加していた。

「ねえ分かってるの!? マリ姉がしっかりしないとダメなんだよ。ラル兄なんてあんなもん、どうしようもないどこに出しても恥ずかしくない真性童貞なんだからさ! マリ姉のほうからキッチリ既成事実を作っていかないと! ライバルもいるんでしょ! 早く騎乗位――」

 酔っ払ってクダを巻くジル。しかし。

「あれ? ラル兄とマリ姉は?」

 ラルフとジルの姿が見えない。

「二人でどっか行ったよ」とレッセパッセが答えた。

「ならばよし! ……いやでもあんまりよくない~。寂しいの~。レッセちゃん慰めて~」

「ジルたん飲み過ぎ。でもかわいい」


「いくらなんでもはしゃぎすぎじゃないですかね……」

 ラルフとマリシアは宴のテンションに少々疲れたので、二人で例の見張り台に座って会話をしていた。

「臨時収入がありましたからね。これぐらいは」

「やっぱりアレ、わたしたちで山分けしてればよかったですね」

「まあまあ。身の丈に合わないお金を持ってもロクなことはないですよ」

 二人とも大分飲んだらしく顔が赤く染まっている。

「ふんだ。いい人ぶっちゃって」

 マリシアは酔い覚ましのために持ってきたミルクに口をつけた。

「しかし驚きましたね。あんな所にあんなものがあったとは」

『焔天使』が山頂部を消滅させたことにより、山の中腹に隠された金の鉱脈が露わになった。ラルフとマリシアはそれを自分たちで掘り出すことはせず、ダイワクビレッジ及びハコルオーネ公国に報告した。

「まあでも謎が解けました。なぜヤツがあんなに大量の財宝を集めることが出来たのかという。アレをこそこそ掘り出しちゃあいたんですね」

「へっ?」

 マリシアは首をかしげる。

「人間から奪ってたんじゃないの?」

「それがですね。ヤツの財宝は基本的には人間から『買って』いたんだそうです。聖なる夜の秘宝のようにどうしても譲らない場合だけ奪いとっていたとか」

「へえ~」

 あまり関心がなさそうな様子だ。

「ヤツが復活するころには金は全部掘り出されているでしょうね。財宝も燃えてしまって。少々可哀想な気がします」

「知らないよ。自分が悪いんじゃない」

 マリシアはぷいっと顔を逸らした。

「あまりご機嫌がよろしくない?」

「当たり前じゃない! だって長年追い求めてきたものが『コレ』だったなんて!」

 ロングスカートのポケットから『聖なる夜の秘宝』を取り出した。

「おお……! 何度見ても美しい……」

 目を輝かせるラルフ。マリシアは深い溜息をついた。

「その。一生のお願いなのですが。これをちゃんと上下セットで装着されている所を一度でいいから拝見したいのです」

 マリシアの強烈なデコピンがオデコを襲った。ラルフは苦悶の表情でうずくまる。

「ばーか」

 ――五分ほどが経過してようやく痛みが引いてきた。

「それでその。マリシアさんはこれからどうされるのですか?」

「……まだ考えてない」

 マリシアは夜空に打ち上がる花火を見上げた。

「残りの秘宝は集めないのですか?」

「集めるわけないでしょ!」

「そうですよね。またとんでもなく危険な旅になりますしね……」

「うん。まァいい加減国に帰ろうかな」

「そうなりますと――」

 ラルフはマリシアから目を逸らし花火が舞い散る夜空を見上げた。

「今日でお別れですかね」

 マリシアは目を見開いてラルフに首を向けた。

 パラパラと花火が散る音が聞こえる。二人とも言葉を発することができない。

 ――数十分はそうして沈黙していただろうか。

 先に口を開いたのはラルフだった。

「そういうことなら! 今日はマリシアさんの送別会も兼ねるということになりますね! それでは村に戻ってパーっと――」

 ラルフはなんとか笑顔をつくって見せた。

 マリシアはその顔をじっと見つめながら呟く。

「やっぱり。集めようかな。聖なる夜の秘宝」

「えっ!?」

「よく考えたら。全部取り返したほうが『取引材料』としていいかもしれない」

「でも危険じゃ……」

「いいの! 私はどうしても好きな人と結婚したいの!」

 そういってマリシアは見張り台から飛び降りた。

「あなたも降りて来てよ! 早く!」

「あ、ハイ!」

 ラルフは慌てて階段を滑り降りた。

「ねえ。いっしょに来てくれるんでしょう? くれるよ……ね?」

 マリシアの問いにラルフは全力の笑顔で答える。

「はい! もちろん! 地獄の果てまでも!」

「ラルフ魔防具工場はいいの?」

 ラルフは一瞬だけ考えてそれからこう答えた。

「先日リニア・ファイブスター様が作ったドスケベシタギを拝見させて頂いて、僕が防具屋として三流以下のマザーファッカーだということがよーくわかりました」

 自分の頬に自ら強烈なビンタを喰らわせる。

「そんな僕が『二流の下』になるためには。残る四つをこの目で見て勉強させて頂くこと。それが必要だと考えております」

「……ちょっと卑下しすぎじゃない? ま、ついてきてくれるならなんでもいいか」

 マリシアは目を線にして笑った。

 それから。彼女はそっと右手を差し出し、

「手」

 とポツリ呟いた。

「手? 手がどうかされたんですか??」

「もう! 分かってよ!」

「あ、ああ! そうか! すいません!」

 ラルフはマリシアの右手を右手でそっと握った。

「それじゃあ握手でしょ。左手で握るの!」

 カーッと顔を赤くしながら手を握り直した。

「あなたの手冷たい。大丈夫? 風邪とか引いてない?」

「いえ。大丈夫ですよ。マリシアさんこそ大丈夫ですか? めちゃくちゃ熱いです」

「そうかなあ?」

 二人は村の入口に向かって歩いてゆく。

「ジルちゃんのところに行こう。フライングダッチマンを借りられないか頼んでみましょう」

「なるほどですね……ところで」

「なぁに?」

「さきほど――」

 ラルフはボリボリと後頭部を掻きながらマリシアに問う。

「す、す、好きな男性と結婚したいとおっしゃっていましたが」

「言ったねぇ」

「その! どういった方がタイプなのですか!?」

「そうさなぁ」

 マリシアはラルフの手を乱暴に振り払った。

「あんまりドスケベな人は嫌いかな」

「え……それって……」

 ラルフがあまりに本気で落ち込んだ顔をするもので、マリシアは腹を抱えて笑った。

「ハハハハハハ! どうしちゃったの!? その顔!」

「だって……なんだかんだ結構いいかんじかなと思っていたのですが……」

「甘い甘い! 私はそんなに簡単じゃないよ!」

 そう言いながらラルフの首に両腕を回し、

「私のガードは鉄壁不敗だからね。もっと頑張らないと」

 そっと口をつけた。

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鉄壁不敗!ドスケベミズギ! しゃけ @syake663300

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