4-8 ドスケベVSドラゴン最終決戦⑧

 十数分後。

 ダイワクボルケオは上半分が吹き飛び、もはや山というよりは巨大な台地になっていた。その上空には黒い火山灰がもうもうと立ち込め、赤い火の手が上がっている。中の様子は全くわからない。

「ジルたん。つっこんでみよう。それしかない」

「うい!」

 ただ。なにか怪物の咆哮のようなものが聞こえた。

「ハハハハハハ! 燃えた燃えた! 全て燃えた!」

 彼――彼女と言ったほうがよいかもしれない――は炎と煙と爆発に包まれながらなかなか上機嫌であった。

「宝も全部燃えちゃったし、ラルフさんもいねえけど! これでいいのだ! こんな素晴らしいスペクタクルを見ることができたのだから!」

 口をパカパカと開閉させて興奮を表現する様子は可愛らしく見えないこともない。

 ――そんな彼女に。

 話かける声があった。野太くてなんとなくボーっとした感じの声だ。

「まったく。呆れますね。こんな炎の中なんの装備もなく生きているって」

 彼女はもっと上機嫌になった。

「おお! ラルフさんの幽霊でしょうか? 死してなお私に会いに来てくれるなんて感激です! でも寂しがって頂く必要はないですよ。恐らく私も後ほど――」

「残念ながら幽霊ではないんです。それに僕は歩く善行みたいなもんですからね。あなたと同じ地獄には行けません」

「な……」

「おい! 古代文明を滅ぼしたヤツ! まあ正直そんな昔のことなんか知ったこっちゃないから別にあなたを恨んだりする気もないけど。これだけは言ってやる!」

 ラルフの声が今度ははっきりと聞こえた。

「こんな炎で! オレは焼けない!」

 すると。台地全体を包んでいた煙と炎は蒸発するようにして徐々に立ち消えてゆく。

「全部消えちまえ!」

 ――ラルフの叫びと共にダイワクボルケオの上空に素晴らしい青空が広がった。

「すごい……! これが本当のドスケベの力か……! やはり僕が作ったものなど、ニセモノに過ぎなかったなァ」

 ラルフは全身黒こげの傷だらけ、上半身にブラジャーをしてフルチンという姿で爽やかに笑った。

「ほら見て下さい。マリシアさん。綺麗な空ですよ」

「かっこいいけど。ブラブラしてるんだよなあ。上半身も下半身も」

 マリシアは自分の姿を棚に上げてラルフの格好をなじった。

「申し訳な――ん? なんでしょうこの地面。ところどころ金色に光って――」

「なんでもいいから早くおちん隠して!」

「ハッ! 大変失礼しまし――」

「……ハハハハハハハ!」

 ラルフとマリシアの声を遮るように、ボルケオドラグーンは笑った。二人はそちらを振り返る。

「人間って怖いいいいいいい! ドラゴンなんかよりよっぽど性質が悪いじゃないか! やはりボルケオドラグーン・シニアは正しかった! さすが我が父だ! 殺しちゃったけど!」

 そこにはバラバラになった人間の女の子が転がっていた。

「そうなられると……罪悪感がありますね」

 ラルフは顔をしかめる。

「でも。最後になる可能性が高いのでこの姿を見て頂きたかったんです」

「……『可能性が高い』ですか?」

「今なんとか再生を試みているところです。首尾よく復活することができたらまたお会いしましょう」

「くっ……! なんてヤツ!」

 マリシアがとどめを刺そうと岩を持ち上げて駆け寄る。

 だが。ラルフがそれを制止した。

「なんで!?」

「なんか。命をかけて闘って。この人のことが少し好きになってしまったんです」

「……! 私もです! 私もラルフさんのこともっと好きになりました! 好き! 好き! 好き! すっごい好き! 大大大好き! 超愛してる! 寵愛してる!」

 マリシアは呆れ果てた顔で、岩を後方にポイっとほおり投げた。

「拳で語り合う友情ってヤツですか? 男の人の友情ってよくわからないですね」

「今は女だって言ってるだろう! 筋肉ブス! 終わっちまえ生理が!」

「はいはい。負け犬が吼えてますね。ウケる」

「これで勝ったと思うなよ! おまえはまだなにも成し遂げてはいない!」

 ラヴァはどういう原理か、取れた右手を動かしマリシアを指さした。

「聖なる夜の秘宝はひとつではない。五つ!」

「――!? ウソでしょ!?」

「残りの秘宝はバーディー砂漠、ハレクラアイランド、レッド・ホット・マングローブ、バンバンビガロの大洞窟。それぞれ私の兄弟達が保管しているぞ。ククク」

「なんでそんな……クソ暑いところばっかり……!」

「みんな私が常識竜に見えるほどの奇竜、変竜だ。しかもメタスタティス以上に恐ろしい邪宝を所持している。楽しみにしておけ」

「やだ! そんなのヤダ!」

 マリシアは地面に転がって回転しながら両手両足をジタバタさせ始めた。

「ラルフさん。今度出会ったなら。もう防具作るとか私の奴隷になるとかはどうでもいいから、闘ったりせずにひたすらイチャイチャしましょうね。エッチしたりして」

 ラルフは口元に笑みを浮かべ、

「二人とも元気ですね……僕の方はちょっとダメージ大きいかも」

 と仰向けに倒れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る