4-7 ドスケベVSドラゴン最終決戦⑦
白い石膏人形。
大きさはおそらく原寸大。アタマはついていないタイプのもの。
それ自体はありふれたものだ。
聖なる夜の秘宝とはそれが着ているもので間違いないであろう。
「これは――!?」
ラルフがガラガラの声を振り絞って叫んだ。
「ドスケベ! これはドスケベシタギだ!」
上半身は鬼畜のごとき刺繍とフリルの入った極彩色のブラジャー。下半身についてはイヤというほど股に切れ込んだパンティー、膝上タケのストッキングとそれを釣り下げるためのガーターベルトという三部構成になっていた。
「これはシャールズ・マスターピースに記録されている防具のひとつです! おそらくマリシアさんのお爺様が再現されたもの……!」
「これが聖なる夜の秘宝……!? ウソでしょ……こんなもののために私は」
マリシアは足をふらつかせ、ぐらりと棒が倒れるかのように地面に顔面を打ちつけた。
「なるほど、これはお父様が私に見せてくれないわけだ……」
一方のラルフは。
「うっ……うっ……くあああぁぁあ……」
涙を流していた。
「えっ! 泣いてるの!?」
「美しい……美しすぎる。これに比べたら僕が作ったものなんてゴミクズ同然だ……」
「そうかなあ……? はァ……私の人生最後に見るものがコレか……」
マリシアは不満そうに地面に指で『の』の字を書き始めた。
「はっ! 待って下さい! マリシアさん! 『最後』ではないかもしれません!」
「えっ!?」
「そのドスケベシタギにもおそろくストーンコールドシルクワームの糸が使われています! 火焔耐性があるかもしれません! そいつを着れば二人とも助かる!」
「えっ! で、でも! ひとつしかなくて!」
「一人がブラジャー、もう一人がパンティーを履けば大丈夫!」
マリシアは頭を抱える。
「早く! どちらかをこっちに投げて下さい!」
「どっちかって言われても!」
少々迷ったあげくマリシアは石膏像からブラジャーを外しラルフの方に投げ捨てた。
「ありがとうございます!」
ラルフは普段ブラジャーを着用しない上、女性のものを脱がせたような経験もないため、悪戦苦闘。なんとかかんとかそれを身に着けた。
「なんというひんやり感……! やはり僕が作ったものとはレベルが違う……!」
「このロケーションでなければ凍えるくらいの冷気ですね……!」
マリシアもいつのまにか着替えを完了していた。当然ながら上半身は裸なのでうまい具合に両手で胸を隠している。
「おお! マリシアさん! 美しい! 美しすぎる! ずっと見ていたくなる芸術性と抱きしめたくなるような愛おしさが同居している! ブラジャーもあれば恐らくさらに美しいはず!」
「あ、ありがとう。でもごめんね。なんかあんまり喜べないの」
マリシアの白い肌がピンク色に染まった。
「おっと……そんなこと言ってる場合じゃない。早くここを去りましょ――」
そのとき。体から分離されたドラゴンの頭が口を開き重低音の咆哮をあげた。
ラルフとマリシアは恐怖を顔に浮かべながらそちらを振り返る。
「キャハハハハハハハ! 首取れちゃった! 受ける! すげーウケる! 手足もついてないし、ドラゴンの癖に人間にコテンパンにやられる私ってなに!? ヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ!」
まさに狂気一〇〇%とでも言うべき、明るすぎる声でそのように述べた。
「こわっ」「こわいですね。ってゆうか憐れです」
ラルフとマリシアは眉をひそめる。
「おっと。憐憫の情を覚えるのはまだ早いですよ。この状態でもできる攻撃、というかこの状態でないとできないコトというのがあるのです。ねえ。ご聡明なラルフさんはきっとお気づきですよね。『あの邪宝』の魔力は捧げる血の量と質に比例する」
――ドラゴンの口から虹色の光が漏れ出した。
「まさか……!」
「邪宝メタスタティス。口の中に入れておいたんですよ。幸いたくさん血が出ておりますので凄まじい兵器を呼ぶことができそうです。上をご覧になって下さい」
上空にブラックホールのごときまがまがしい黒色の穴が開いていた。
「これは『焔天使』。古代文明を滅ぼした最終兵器だそうです」
鮮やかな赤色に塗装されたミサイルが上空に姿を現した。
「お二方も存分にお滅び下さい」
「ふざけるな! 滅ぼされてたまるかーーーー!」
ラルフは両手を広げてマリシアを守るようにして立った。
「ラルフさん……!」
「僕の後ろに隠れて下さい。無駄かもしれないけどそれぐらいのことはしたいです」
「うん……」
マリシアはラルフの腰に思い切り抱きついた。
――そうこうしている間にミサイルは完全にこの世に召喚され、いままさに落下しようとしていた。
「さあ来い! 古代文明は滅ぼせてもオレは滅ぼせないぞ!」
ミサイルはゆっくりと落下してくる。
着地まで3・2・1――――――――――ゼロ。
――爆発。
雷光と炎のドームが一瞬にして広がった。
爆発に誘発されてあちらこちらでマグマの噴出が始まる。
「ちくしょう! 死んでたまるか!」
「ラルフさん! ラルフさん!」
「キャハハハハハハハハハハハハ!」
「火山のほうだよな?」
「なんだありゃあいったい……」
「この世のお終わりじゃ……!」
ダイワクビレッジの住人たちは全員が真っ赤に染まった空を見上げていた。
「レッセちゃん! アレは……!」
「むうううぅぅう……! 行くぞジルたん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます